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「素材(データ)」「厨房(システム)」「料理人(人材)」の3要素は、いかにして整備されたのか?ユーザー会で最も反響のあった基調講演の全貌を、特別に記事化。
2025年10月28日に開催された「TDSE AI Executive Forum
2025」で、TDSEの技術セッションと並び、参加者から最も高い評価と共感を集めたのが、NTT東日本
松本氏による基調講演である。
「新技術を導入しても、なかなかビジネス成果(価値創出)につながらない」。これは、多くの企業が直面する共通の課題だ。
本記事では、NTT東日本がこの課題に対し、いかにしてデータドリブン文化を根付かせ、価値を生み出す変革を進めているのか、その具体的な戦略と実践の軌跡を深掘りする。
※NTT東日本 松本氏
すべての企業が直面する「Excel報告スタイル」の壁
松本氏は、データドリブンな事業運営の取り組みを紹介する冒頭で、多くの日本企業に深く根付いた「Excelを活用した業務運営」という文化的な課題を提示した。 NTT東日本も例外ではなく、長らくExcelへの依存がデータ流通のボトルネックとなり、非効率な対応が全社的に発生していたという。 データが個人のPCや各部門のExcelファイルに散在し、必要な時に必要なデータが活用できない。この「Excel文化」の壁こそが、データドリブンによる価値創出を阻む最初の関門であった。
解決の鍵は「料理」にある — データドリブン推進に必要な「3つの要素」
では、この「Excel文化」などの課題を乗り越え、新技術で価値を創出するにはどうすればよいか。松本氏が提唱するのが、データドリブン推進の核心的なフレームワーク「料理の比喩」だ。
※「素材・厨房・料理人」の3要素と価値創造の関係を示した図
優れた料理(=ビジネス成果)を生み出すためには、3つの要素が欠かせない。
1.素材 = データ: 社内外の顧客データ、稼働データなどとガバナンス。
2.厨房・調理器具 = システム・ツール:
技術・データ基盤(DWH、クラウド、BIツール)とガバナンス。
3.料理人・レシピ = 人材・ノウハウ:
分析者、研修、コミュニティ、そして事例テンプレート。
「厨房」と「素材」の整備 — Excel文化からの脱却
まず「厨房(システム)」と「素材(データ)」の整備から着手した。特に監査・財務・調達といった共通業務領域で、Excel依存からの脱却を強力に推進した。
※Excelバケツリレーの現状から、Snowflakeによる一元化への変革を示した図
【As-Is(従来)】
各部門が個別のExcelでデータを分割・集計し、報告のためだけに多大な非効率が発生していた。
【To-Be(現在)】
■厨房(システム)の整備
・Snowflake を中心にデータの一元化を推進。 ・TableauやPower BI
などのBIツールで可視化・参照を標準化。
■素材(データ)の整備
・入力はフォーム化
することを標準とし、データがExcelを経由せずにシステムに蓄積される設計へ移行。
・データカタログやアクセスガイドラインといったガバナンスを併せて整備。このガバナンスはシステムの利用方法にも関わるため、「厨房」の整備とも密接に連携している。
これにより、必要な人(組織)が必要なデータにアクセスできる環境を構築。Excel依存の業務フローそのものを変革するモデルづくりに成功した。
最強の「料理人」を育てる — 1,000人コミュニティと「武者修行」
最も困難な課題は「料理人(人材・ノウハウ)」の育成だ。NTT東日本は、ボトムアップとトップダウンの両輪で、独自の人材育成エコシステムを構築している。
※DataSaberやコミュニティ活動のピラミッド構造を示した図
1. ボトムアップ施策(熱量の醸成) 有志によるコミュニティ活動が、育成の土台となっている。
- ・Tableauユーザー会/勉強会: 社内で1,000人規模にまで拡大。
- ・上位資格取得支援: 高度な分析スキルを持つ「Data Saber」の取得を支援し、社内で約100名が認定されている。
2. トップダウン施策(全社化) 経営層も巻き込み、ボトムアップの熱量を全社活動へと昇華させた。
- ・全社フォーラム: データ分析競技(世界的なデータ分析コンテストのIron Vizに準拠)を「現場力向上フォーラム」で実施し、実践力強化の象徴としてメッセージを発信した。
- ・体制整備: 「データイノベーションチ1ャレンジ」として、経営課題や業務課題(案件)と、1,000人を超えるDX人材プールとのマッチングなど、データドリブン文化の定着に向けた個々の施策の有機的な連動を進めた。
3. ユニークなノウハウ移管「OJT(武者修行)」 育成のボトルネックとなりがちな「上長の指導不在」を補完するため、ユニークな「武者修行」制度を導入。
※6ヶ月間のOJTによる人材還流モデルを示した図
データドリブン推進部門が、社内副業(業務稼働の20%)やOJTの枠組みで各部署の若手を受け入れ、実践的な指導を行う。育成後は自組織に戻り、データ活用のリード人材として活躍する。さらに将来的には、管理職の要件としてデータ活用スキルを盛り込む構想も進めている。
NTT東日本が見据える「AIが動く」未来
「素材・厨房・料理人」というデータドリブン基盤が整った先で、NTT東日本が見据えているのが「AIエージェント」の活用だ。
※出典 McKinsey&Company – 生成AIがもたらす潜在的な経済効果
松本氏が特に期待を寄せるのが、これまで費用対効果の壁が厚かった「ロングテール業務」の自動化である。一つ一つの効果は小さいが多種多様に存在する非効率な業務に対し、AIエージェントの内製化や再利用・組み合わせによってAI活用のコストを低減し、業務の抜本的な改革を狙う。
これは、TDSEがフォーラムで掲げた「データが語り、AIが動く」というテーマと完全に合致するものであり、多くの参加企業にとって「次の一手」の大きなヒントとなった。
まとめ
NTT東日本の先進的な取り組みは、「技術の導入」そのものではなく、それを使いこなすための「基盤(厨房)」と「人材(料理人)」の整備がいかに重要であるかを示している。
「Excel文化からの脱却」という泥臭い第一歩から、「1,000人規模のコミュニティ運営」、「AIエージェントによるロングテール業務の改革」という未来像まで。その実践録は、業界を問わず、すべての企業にとって課題解決のヒントとなるはずだ。
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