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その広告費、本当に「効いて」いますか?
──相関と因果を見極め、因果推論で“ムダな予算”をなくす
「キャンペーンを打ったら売上が伸びた。施策が成功した」。
一見もっともらしいこの判断こそ、マーケティング予算をじわじわと蝕む、最も危険な思い込みかもしれません。
売上が伸びたのは、本当にその施策のおかげなのか。
それとも、施策がなくても伸びていたのか。
両者を見分けられないまま予算を配分し続ければ、「効いていない施策」にコストを払い続けることになります。
本記事では、「相関」と「因果」を見極め、施策の本当の貢献度を測る考え方(因果推論)を、解説します。
マーケティングにおける「因果推論」の重要性が高まる理由
施策の効果測定は、これまでもマーケティングの重要なテーマであり続けてきました。その中でも因果推論の考え方が改めて注目を集めているのは、顧客接点の複雑化やCokkie規制、投資対効果への説明責任の高まりによって、「本当に効いた施策」を見極める難易度が上がっているためです。
顧客は複数のチャネルを横断して購買に至るため、どの施策がどれだけ成果に寄与しているのかを単純に把握することが難しくなっています。
こうした状況の中で、「本当に効いた施策」を見極める重要性は、これまで以上に高まっています。
また、予算に対する説明責任は、年々重くなっています。
「この広告費は、結局いくらの利益を生んだのか」、経営層からのこの問いに、担当者の感覚や前年比だけで答えるのは限界があります。
求められているのは、「その施策があったからこそ生まれた成果」を見極める説明です。
相関と因果を混同するという落とし穴
施策の効果検証でよく起こるのが、「施策を実施した後に売り上げが伸びた」ことを、そのまま「施策の成果」とみなしてしまうことです。
しかし、売上は広告やキャンペーンだけで動くわけではありません。季節要因、価格改定、競合の動き、商品そのものの需要、既存顧客の購買傾向など、様々な要因の影響を受けています。
つまり施策と売上が同じタイミングで動いたとしても、それだけで「その施策が売上を伸ばした」とは言い切れません。
ここで見極めるべきなのが、相関と因果の違いです。
相関≠因果──「一緒に動く」ことと「引き起こす」ことは違う
相関とは「2つの数字が一緒に増えたり減ったりする関係」、因果とは「一方がもう一方に影響を与え、結果を引き起こす関係」です。
例えば夏になると、かき氷とビールの売上はどちらも伸びます。この2つには強い相関があります。しかし、かき氷が売れたからビールも売れたわけではありません。両方の売上を押し上げているのは「気温が高い」という共通の要因です。
マーケティング施策の効果検証でも、同じことが起こります。
※図案1:かき氷とビールの売上は一緒に増減するが、それは「気温が高い」という共通の要因が両方を押し上げているため。両者に直接の因果関係はなく、相関だけで施策の良し悪しを判断する危うさを示す。
ありがちな2つの錯覚
たとえば、優良顧客に限定してクーポンを配ったところ、売上が伸びた。
一見、クーポンの成果に見えますが、優良顧客はそもそもクーポンがなくても買ってくれる層です。
伸びのうち何割が「クーポンのおかげ」なのかは、これだけでは判断できません。
あるいは、年末にキャンペーン広告を打ったら売上が伸びた。
一見すると広告が効いたように見えますが、年末はもともと需要が高まる時期です。
さらに価格改定や競合の動き、商品そのものの注目度など、売上に影響する要因は広告以外にもあります。その伸びが広告によるものなのか、もともとの需要増や外部要因によるものなのかは、切り分けて考える必要があります。広告がなくても伸びていたはずの分まで、まるごと広告の手柄にしてはいないでしょうか。
どちらも、「施策と売上が一緒に動いた(相関)」だけで「施策が売上を引き起こした(因果)」と早合点してしまう、典型的な錯覚です。
相関だけを見て判断すると、「効いているように見える施策」に予算を投じ続けてしまう可能性があります。だからこそ、効果検証では、単に数字が一緒に動いたかではなく、「その施策がなければどうなっていたのか」を考える必要があるのです。
検証のズレは次の打ち手にも影響する
この錯覚が怖いのは、一度の誤りで終わらない点にあります。
効果検証で相関と因果を取り違えたまま成功と評価すれば、影響は一度の施策評価だけにとどまりません。施策そのものの効果と、季節要因・顧客層・市場環境などの影響を切り分けないまま判断を重ねると、本来うまく回るはずのPDCAを回せば回すほど、改善の方向性がずれていく可能性があります。
土台である検証が狂えば、その上に積み上がるサイクル全体が狂ってしまうのです。
マーケティングの現場では、限られた予算や人員の中で、どの施策を続け、どこを見直すのかを日々判断しなければなりません。誤った施策に投じた予算や工数は、本来もっと効果が見込める施策へ回せたはずのリソースでもあります。
効果検証は、過去の施策を評価するためだけのものでなく、次の投資判断をより確かにするためにも重要なのです。
※図案2:Check(検証)で相関を因果と取り違えると、次のAction(改善)で本来見直すべきポイントから外れてしまう可能性がある。効果検証の精度は、一度の施策評価だけでなく、その後のPDCA全体にも影響する。
「もし、その施策がなければどうなっていたか?」という発想
では、相関だけで判断しないためには何を見ればよいのでしょうか。
ポイントは、売上や反応率が伸びたという結果を見るだけでなく、「その施策がなかった場合」と比べて考えることです。
つまり、「もし、その施策をしなかったら、同じ結果になっていたか?」という問いを持つことが出発点となります。
反実仮想──「施策がなかった場合」と比べる
例えば、ある顧客Aさんに施策を打ち、商品を購入してくれたとします。
この時知りたいのは「購入してくれた」という事実だけではありません。
本当に知りたいのは、クーポンがなかった場合と比べて、購入につながる確率や売上がどれだけ上がったかです。
ただし、同じAさんについて、「クーポンを受け取った場合」と「受け取らなかった場合」を同時に観測することはできません。このように、現実には観測できない「施策がなかった場合」を仮想的に考え、実際の結果と比較しようとする考え方を「反実仮想」と呼びます。
因果推論は、この反実仮想にできるだけ近づき、施策によって生まれた差分を見積もるための考え方です。
※図案3:施策の効果は、「施策を受けた場合の結果」と「施策を受けなかった場合に想定される結果Aさん」の差として考える。この“施策なかった場合”を推し量ることが、因果推論の出発点となる。
理想はA/Bテスト、でも現実にハードルもある
反実仮想に最も素直に近づく方法が、A/Bテストです。
対象をランダムに2つのグループへ分け、片方のみに施策を実施すれば、両者の差は施策による影響として捉えやすくなります。
一方で、これを毎回実施するのは現実的ではありません。
コストや時間がかかることに加え、「片方には機会を提供しない」ことへの運用上の制約や判断も必要になるためです。
こうした背景から、マーケティングの現場では、A/Bテストが可能な場合はそれを活用しつつ、難しい場合には「統計的因果推論」や「回帰分析」などを用いて検証を行うといった使い分けが求められます。
いずれにしても重要なのは、その施策がなかった場合と比べてどうか、という視点で効果をとらえることです。次章では、A/Bテストを含め、こうした考え方が実際のマーケティングの現場でどのように活用されているのかを見ていきます。
【ユースケース】因果の考え方はどのように活用されているのか
ここまでの説明だけでは使いどころがイメージしにくいかもしれません。そこで、代表的な3つの活用場面を、実際の効果とあわせて紹介します。
1. キャンペーンの純増効果を測る(A/Bテスト)
純増効果とは、その施策があったからこそ上積みされた分のことです。
先ほどの反実仮想(施策を行わなかった場合との差)を定量的にとらえたものと考えることができます。
ある保険会社では、LINEはメールより反応がよいという単純な比較を根拠に、コストをかけてLINE配信を続けていました。ところがA/Bテストで検証してみると、LINEのみを送った時とメールのみを送った時では反応に差はなく、メールマガジン登録の顧客層とLINE登録している顧客層の違い(属性や、LINEでともだち連携してくれるほどに親近感を持ってくれていること、など)による影響を、LINEの効果と見誤り、効果のない施策にコストをかけていたことが明らかになりました。
本当に重要なコミュニケーションのみにLINEを送るように施策を改めた結果、年間で数百万円規模のコスト削減につながりました。
こうした「効いているように見えるだけの施策」を見つけて止めることも、重要な改善の一つです。
2. 似たもの同士のグループで比較する(マッチング)
優良顧客だけにキャンペーンを打つなど、一部の顧客だけをターゲットにマーケティング施策を打つ、等はよくあります。しかしこの場合、施策の対象になった人はもともと商品を購入しやすい人たちなので、キャンペーンの後に商品を買ったとしてもそれだけではキャンペーンの効果はわかりません。
このような場合、「マッチング」と言われる方法で、似た者同士を寄せ集めたうえで、その中で施策の対象となった人とならなかった人を比べることで、A/Bテストに近い状態を作り出して施策の効果を推定することができます。
3. 広告予算の最適化(MMM:マーケティング・ミックス・モデリング)
TV・Web・ラジオなど複数のメディアに出稿していると、「どのメディアがどれだけ売上に貢献したのか」が見えにくくなります。
これを集計データから解きほぐすのが、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)です。広告の出稿量が増えるにつれて効果が鈍る飽和や、時間とともに効果が薄れる残存まで考慮しながら、メディアごとの貢献度と最適な予算配分を推定します。
実際にこの手法で配分を見直したケースでは、年間の広告費総額に対してCV率がおよそ3〜7%向上する効果が得られています。
効果が頭打ちのメディアから、まだ伸びしろのあるメディアへ予算を移す、その判断を、勘ではなくデータに基づいて検討できるようになります。
一人ひとりのCookieに依存しない点でも、いま再評価が進むアプローチです。
▶事例詳細はこちら:広告宣伝費の予算配分最適化
4. 複雑な接点の貢献度を可視化する(アトリビューション分析)
購入に至るまでに顧客が通る複数の接点を一つひとつとらえ、それぞれの貢献度を評価するのが、アトリビューション分析です。
ある保険会社では、契約後のさまざまなタイミングで一斉にメールを送っていました。
しかし分析の結果、効果があるのは特定のタイミングに限られていることが明らかになりました。
不要なメールを止め必要なものへ絞り込んだことで、顧客体験の向上にもつながりました。
▶事例詳細はこちら:カスタマージャーニーにおけるコミュニケーション効果
さらにその先には、顧客一人ひとりに対して「次にどの施策が最も効果的か」を見極め、打ち手を最適化していく1to1のアプローチも広がっています。
これら4つに共通するのは、成果を分けるのが「データの量や質」だけではなく、「どのように問いを立てるか」だ、という点です。
同じデータを前にしても、正しい比較を設計できるかどうかで、導かれる結論は大きく変わってきます。
「問いの立て方」で、意思決定は変わる
効果検証は、単に施策の良し悪しを振り返るためのものではなく、次にどの打ち手を選ぶかを決めるための意思決定の基盤です。
ここまでは主にマーケティング関連の事例をご紹介してきましたが、マーケティングに限らずビジネス全般で正しくPDCAサイクルを回すうえでは、「その施策がなかった場合と比べてどうか」という視点で効果検証することが、次の一手を見極める際に重要になります。
まずはご相談から
「自社のあの施策がどれだけ成果に貢献しているか確かめたい」
そうした具体的な課題をお持ちの場合は、お問い合わせよりお気軽にご相談ください。