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はじめに:物流業界をとりまく状況
すでに多くの企業が様々な取り組みを始めている「物流2024年問題」。
物流業界は様々な課題に直面していますが、その中でも最も大きな課題は人材不足と言われています。
まずはこの課題について大きく3つに分けて原因を整理してみましょう。
人材不足に陥る3つの原因
1.アフターコロナにおける個人向け物流需要の拡大による、小口配送の増加
‐ 国土交通省が発表している令和4年度 宅配等取扱個数の推移では、宅配取扱個数が右肩上がりで上昇しています。
2.ドライバーの高齢化
– 2024年5月の総務省統計局発表の労働力調査では、道路貨物運輸業に従事する男女の約50%が50歳以上となっています。物流業界の過酷な労働環境などのネガティブイメージから、若手人材の流入が少ないことも考えられます。
3.時間外労働時間上限規制及び、改正改善基準告示の適用(図1)
– 運送業には2024年4月1日から時間外労働時間上限規制と改正改善基準告示の適用が始まりました。運ぶべき荷物は増えているのに、労働時間が適用以前より減っています。
時間外労働上限規制の適用(年間960時間)
改正改善基準告示(長時間労働・過重労働の実態にある自動車運転者の健康確保等の観点から、見直しを行うもの。)
図1:法律による労働環境改善のための規制強化
2024/3/31まで | 2024/4/1から | |
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1年の拘束時間 | 3,516時間 | 原則:3,300時間 |
1か月の拘束時間 | 原則:293時間 最大:320時間 |
原則:284時間 最大:310時間 1年の拘束時間が3,400時間を超えない範囲で ※ 284時間を超える月が3か月を超えて連続しないこと ※ 月の時間外・休日労働が100時間未満となるように努める |
1日の休息時間 使用者の拘束を受けない期間のこと(業務終了時刻から次の始業時刻までの時間 |
継続8時間 | 継続11時間を基本とし、9時間下限 ※長距離・泊付きの運行の場合は、運行を早く切り上げ、 まとまった休息をとれるように例外を規定。 |
この労働時間等の規制の適用は労働環境の改善を目的として導入されたものですが、ドライバー職の賃金低下の原因となっているとも考えられています。
元々物流業界は長時間の残業ありきで作られた給与モデルを採用している場合が多く、労働時間を規制されると労働者が受け取る賃金も減ってしまいます。これまで、長時間拘束で過酷な労働環境でも”稼げる”という理由でドライバーに従事する人もいたものの、体力仕事な上に労働時間の上限規制による残業時間の短縮で賃金がこれまでより低くなってしまうと、さらにドライバー志望者が減少してしまうという悪循環も発生しかねません。
運ばなければならない荷物は増えているのに、ドライバーの数も、既存のドライバーたちの労働時間も減っていく。
2025年には20万人のドライバーが不足すると言われており、このままでは運ぶべき荷物が運べない事態に陥ってしまいます。このような現状を踏まえ、私たちはこの問題にどう対処すればよいのでしょうか。
課題とその要因の整理
前述の通り、物流業界は荷物を運ぶためのリソース(労働者・労働時間)が減少していく状態にあり、人材不足が深刻化しています。この課題に対して、デジタル化及びデータ利活用による業務効率化が有効な解決策となるのではないでしょうか。
国土交通省による「物流業務のデジタル化の手引き」でもまとめられている通り、現時点で物流業の各工程のデジタル化意識・意向はそこまで高くありません。
これには、コストの問題やデジタル化をリードする組織がないなどの体制の問題に加え、現場の高齢化によるデジタル化への心理的な抵抗感や、長年の経験と勘のほうがデータ利活用で得られる示唆や知見より精度が高いなどの理由があるのではないかと考えられます。
特に経験則が重視され、属人的になりやすい領域として、
・トラックの配車計画の立て方
・運転技術
・宅配ルートの地図引き
・集荷時間の調整
などの業務が挙げられます。
しかし、ベテランドライバーに頼った属人的な業務体制を続けていては、労働力、労働時間のリソースは減る一方です。それによって業務がひっ迫し、顧客に新たな付加価値のあるサービスを企画・提供することができないと、同業他社と価格のみの競争となってしまいます。結果的に、収益源である配送運賃の低下を招くという悪循環に陥ってしまう可能性があります。
このような非効率から生まれる悪循環に対して、以下の3点を目標にデジタル化、データ利活用に取り組んでいく必要があると考えます。
- ① 若手がより活躍できる(新人さんも短期間でベテラン並みに稼働できる)環境作り
- ② 労働環境の改善(既存ドライバーの負担軽減)
- ③ 非効率な業務から解放され、付加価値を生み出すための企画やサービス化を検討できる環境作り
この3点のうち、①~②は人手不足の解消を目指しており、③は収益構造の改善、特に価格ではない純粋なサービス競争による顧客の開拓を目指します。収益構造の改善により、適正な労働時間と賃金が担保されることで人手不足の解消にもつながり、さらなる収益の上昇を目指すことができるようになります。
以下では、当社でご支援したデータ利活用の事例を紹介していきます。
データ利活用による課題解決例
物流量予測に基づいた運送トラック配備の効率化
こちらの事例では、運送トラックの配備計画が担当者の経験則に基づき作成されるため、ばらつきが生じるという課題がありました。これに対して、過去のデータに基づいて物流量を予測し、その結果に基づいて、運送トラックの配備の計画を行うソリューションを開発しました。データからは担当者の経験則より高精度の予測結果を導き出すことに成功し、経験と勘といった属人性が解消され、依頼が入る度に時間を割いていた配車計画業務についても、余裕をもって対応することが可能となりました。
数理最適化による配車最適化システムの構築
こちらの事例では、複数拠点を決められた時間で発着する複数の貨物輸送便があり、できるだけ少ないトラック台数ですべての便を調整したい、便へのトラックの割り付け(配車)を自動化したいという課題がありました。これに対して、配送便と拠点間の移動時間のデータから、配車されるトラック台数を最小化する最適配車システムを構築しました。担当者は必要なデータをクラウド上にアップロードして待つだけで、最適な配車結果を得られるようになり、これまで属人的に行ってきた配送順の決め方、ドライバーのシフトの決め方などが自動化され、抜け漏れ等のミスが減少し、短時間での配車が可能になりました。
受領書画像の自動仕分け/項目読み取り
こちらの事例では、荷主から送られてきた受領書の種類仕分け、住所等の情報の入力など人力で行っている業務をAIによって省人化したいという課題がありました。
これに対し、荷主から送られてきた受領書の画像を読み取り、種類の仕分けや内容のデータ化を行う仕組みを作りました。人手で行っていた入力業務を自動化したことで、データ入力工数の削減、ヒューマンエラーの低減につながりました。
走行データによる運転評価モデル
こちらの事例では、トラック運転中の事故の発生を抑止するため、運転指標水準を向上させ、ドライバーの安全運転への意識を高めたいという課題がありました。過去のドライブレコーダーのデータ、車載器の速度、位置データなどを用いて運転の良し悪しを判断し、どこが悪かったのかをドライブレコーダーのデータと連動させて確認できる仕組みを作りました。今まで、先輩ドライバーや教習担当者が行っていた運転指導の属人性の解消に加え、普段の運転から、自身の運転を客観的に評価できるようになり、安全運転への意識を高めることができています。
商品の需要予測に基づく発注量の適正化
物流業に非効率な業務が発生する原因として、荷主の発注量にも言及する必要があります。荷主が適切な量を発注することは無駄な物流を生まないことにつながります。つまり、物流の最適化は荷主、受け取り主等多くのステークホルダーを巻き込んで取り組むべき問題だと言えます。
こちらの事例では、各店舗や事業所の担当者の経験則による発注が行われているため発注量にばらつきがあり、不良在庫や機会損失を招いているという課題がありました。これに対し、売上実績だけでなく、マーケティングデータを活用し、最新の機械学習予測モデルを利用して、精緻な商品需要予測を行いました。データに基づく適正な発注量のレコメンドが可能となり、発注業務の省力化にもつながりました。
※物流業向けのデータ利活用事例についてご興味をお持ちの方はお問合せフォームよりご連絡ください。
その他のソリューションや生成AIを活用した業務効率化
上記でご紹介した事例に加え、弊社がご支援可能なソリューションを少しだけご紹介します。
生成AI、当社QAジェネレーターを用いたカスタマーサービスの効率化、強化
カスタマーサービス対応を生成AIや当社製品のQAジェネレーターに移行することで、対応工数の削減を行うことが可能です。これらを導入することで高精度かつ24時間365日のカスタマーサービスをソリューションで担うことができ、業務効率化のみならず、顧客満足度の向上も狙うことができます。
TDSE Eyeによる検品業務の効率化
外観検査AI「TDSE Eye」は少数の正常画像を事前に学習させておくことで、画像から異常を検知することを得意としており、商品の欠損、破損を発見できます。この製品を用いて検品業務を効率化することで、荷主の出荷が集荷の締め切り時間に間に合わず、無駄な待機時間が生まれる等の問題の解決につながると考えられます。
在宅判定を用いた再配達抑止
スマートメーターを用いて計測した電力使用量の推移から在宅時間を予測することで、再配達を抑止しつつ、最適な配送ルート提案を行うことができます。
物流DXに取り組む際のチェックポイントやロードマップ
ここまでは具体的な事例をご紹介させていただきましたが、実際にこのような取り組みを行う場合、DX推進のチェックポイントやロードマップを理解し、適切に意思決定を行う必要があります。この章では失敗しないDX推進の進め方、ロードマップのイメージをご紹介させていただきます。
当社では、物流業の企業様のDXを推進するにあたり、以下のロードマップをご提案させていただいております。
- 1. 課題と目的を明確化する(AIやツールの導入を目的としない)
- 2. 様々なテーマの中から適用する領域を決定する(アセスメント)※デジタルに転換できる業務の洗い出し
- 3. データを確認し、本当にDXできるかを判断(すでに取得できているデータが活用できるか)
- 4. DXができると判断した場合、DXに向けて分析を行う
- 5. 運用テスト
- 6. システム化・運用
また、物流業界ならではのポイントとして、アセスメント時に以下のような課題に対し、解決策を考える必要もあります。
まとめ
本記事では物流業における課題、それを解決するためのデジタル化・データ利活用事例、ロードマップについてご紹介させていただきました。
今回ご紹介させていただいた事例以外にも物流業界の中には多くの課題が存在します。
当社では、ミッション・ビジョン・バリューに基づき日本の物流が持続的な発展を遂げていくよう、データを用いた業務効率化に取り組み、適正な労働時間で収益の拡大に取り組むご支援をさせていただきます。
本記事で掲載した事例で気になることや、データがない、データの利活用ができるかわからないなどの場合も、目的の明確化やアセスメントから伴走支援を実施させていただきますので、お気軽にご相談をお寄せください!