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Vision1- PoCの前に確認できる!?効果の出やすいビジネス課題へのAIアプローチ

優先的なビジネス課題に対するAIソリューションとは?

取り組みたいAIソリューションが複数存在する場合、事前に優先度を付けることが重要です。

まず、自社のビジネス課題は何かを明確にし、それらの中でAIソリューションを適用できる領域を特定する必要があります。複数の領域を洗い出し、どこから取り組むかを決定するためには、ビジネス上の効果と実現可能性の両面を検討する方法があります。
ビジネス効果はビジネスを理解している人であればある程度予測できますが、難しいのは実現可能性の部分です。
このページでは、効果の出やすさに焦点を当て、実現可能性の高いソリューションをどのような観点で考えるべきかを様々な業種の事例を交えながらご紹介します。

効果の出やすいビジネス課題へのAIアプローチ

実現可能性の高いソリューションを考えるにあたって、実現可能性の観点をビジネス観点で5つ、アナリティクス観点で5つに分類します。

ビジネス観点

1.施策の具体性

実現可能性を高めるには、施策の具体性が重要です。開発したモデルをどのようにビジネスに結びつけるかをより具体的に考えるほど、実現可能性が高くなると言えます。
AI開発は探索的なプロセスであるため、ソリューションも開発の進捗に合わせて進化させていくことになりますが、ビジネス上の効果目標やそれを達成するための精度目標を設定するためには、可能な限り施策を具体化させておくことが重要です。
これにより、コストの見積もりや要求精度を下げた際に運用でカバーできるのか、などの点を考慮することができます。したがって、同程度のビジネス価値を持つ2つのソリューションで迷った場合は、より具体性のあるソリューションを選ぶことをおすすめします。
なお、下記の表中の実現可能性の低さや高さが、開発の是非と結びつくわけではありません。ビジネスの価値の大きさ、他社より先に取り組みたいという要件、社会貢献の価値など、様々な要素を総合的に考慮して判断する必要があります。

テーマ名 施策 実現可能性
IoTデータ異常検知 やってみてから考える
架線異常検知によるメンテナンス効率化 ヘリ空撮動画を元にAIが異常を検知する。異常確率の高い架線の位置情報と異常内容を保守作業員に通知する
商品画像特徴分析 売れる商品の特徴を画像から抽出し今後の販売方針に活用する
類似商品レコメンド カスタマーが商品の詳細を閲覧中に、商品情報と画像情報から類似度の高い順に5つ類似商品を表示する

2. AI代替に対する心理的要因

人間の労働力を代替するAIは非常に魅力的です。
労働力の代替とは、AIを活用した自動化によって、人間が行う作業を代わりに実行させることを指します。自動化による効果としては、作業品質の一貫性や作業の効率化、そして人的リソースの削減が期待できます。しかし、人間の仕事を完全に代替するソリューションは難易度が高く、また、仕事を奪われるのではないかという心理的な拒絶感のハードルを乗り越える必要があり、実現可能性は高くありません。
そのため、多くの場合はAIが人間の作業を補助する役割を担う形で活用されます。具体的な例として、製造業ではAIを使って製品の不良チェックの最初の段階を自動化し、不良品と判定された製品を人間が再度チェックするという方法があります。
このように、AIと人間の連携によって作業の効率化や品質向上を図ることができます。ソリューションの効果に注目することは重要ですが、同時に実現可能性も考慮して判断する必要があります。
完全な代替を目指すよりも、AIを使って人間の作業を補完する方が実現しやすく、効果的な結果を得ることができます。

3.リスク

AI活用は強力なソリューションになり得ますが、一方でリスクも留意した上でのアプローチ検討も必要です。
特にAI開発では事前に効果が不明瞭であるという特性上、リスクは十分に検討する必要があります。AIによる予測が的中した場合の効果だけでなく、外れた際のリスクも検討しましょう。予測が外れた場合のリスクを最小限に抑えるために、初めは比較的安全な領域や簡単なタスクから取り組むことをおすすめします。
また、AIだけに完全に依存せず、人間の介入を検討することも重要です。運用の段階で人間がAIの結果を確認し、必要に応じて補正や修正を行うことで、予測の精度や信頼性を高めることができます。
始めは実現可能性が高いリスクの低い領域から始め、徐々にAIの適用範囲を広げていくことで、より確実な成果を上げることができます。リスク管理と人の介入を考慮しながら、AIを適切に活用していくことが重要です。

4.制約

個人情報や運用時の環境、開発時の環境などの観点からも、実現可能性を確認する必要があります。特に環境については、AIプロジェクトでは見落としがちな要素です。例えば、画像AI搭載ドローンを使用してトンネル内を撮影し、異常を検出するソリューションを考えるとします。その際、ドローンが直線的に飛行できるか、法的に許可される空間で飛行できるのか、障害物を回避できるのかといった要素を考慮することは現場から見たら当然ですが、データばかり見ていると見落としがちです。
また、人間は高度な認知能力を持っているため、柔軟に環境に適応できますが、人間のような柔軟性をAIに持たせるのは困難であり複雑な課題です。特に、学習環境は見落としがちな要素です。弊社の事例の一つとして、強化学習による重機の自動操作をご紹介します。強化学習ではAIが重機を知的に操作できるよう学習させますが、最初の段階では未熟で上手に操作できません。その結果、近くにいる人間の安全が脅かされる可能性があります。このため、実環境で危険を伴う学習をさせられないという制約が発生します。ただ、この事例は実際には実現不可能ではありません。具体的な技術の詳細は省きますが、最初に仮想環境のシミュレータ内で学習を行ってある程度安全かつ無茶のない動作を覚えた後、実際の環境での学習に移行します。
したがって、実現可能ではありますが、AI開発としては高い難易度を伴う事例となります。運用環境だけでなく学習環境の制約も考慮することで、より現実的な実現可能性を見極めることができます。

強化学習による自動制御:設備の自動操業等をAIに任せる場合、AIの学習段階で事故が起きてしまう。学習段階で失敗が許されない状況では実現のハードルは高い。そのため仮想環境で学習したのち、現実環境で学習するといった方法がとられる。

5.課題の一般性

ビジネスの観点で考える最後の要素は「課題の一般性」です。解決したい課題が一般的なものなのか、それとも自社の製造に特化したものなのかによって、実現可能性が大きく異なります。一般的な課題の場合は、すでに学習済みモデルが存在することが多く、システムに組み込むだけで実現できます。
一方、自社の製造に特化した課題の場合は、設計段階から始める必要があり比較的コストがかかるため、投資対効果の検討が重要です。一般的な課題の例としては、小売業であれば商品バーコードの読み取りや入店人数のカウントなどがあります。一方、商品の外観検査や類似商品画像検索などは、自社の製造に特化した課題です。
これらの場合、設計段階からデータ収集などを含めて開発を行う必要があります。課題の一般性を考慮することで、既存のソリューションが利用可能かどうかや、新たな開発が必要な場合のコストと効果を判断することができます。

Type レディメイド型 カスタム型
課題 世の中多くのユーザに共通の課題 自社の製造に特化した課題
商品バーコード読み取り
入店人数のカウント
商品の外観検査
類似商品画像検索

アナリティクス観点

1.要求精度

AIの要求精度は、使用目的や運用方法によって異なります。高い精度が求められるソリューションでは、当然AIにとって難易度が高くなります。要求精度を考える観点としては、まず単純にセンシティブな領域かそうでないかという点があります。
例えば、AIの予測が人の命に関わる場合などは要求精度が高くなります。
一方、エンターテインメントなどの利用では、要求精度はそれほど高くないかもしれません。しかしここで重要なポイントとして、人間の介入が可能かどうかを考慮することが挙げられます。もし現在その作業が人間だけで行われている場合、AIが一部を担うことで十分効果が期待できるソリューションも存在します。例として弊社が東京電力パワーグリッド様と開発した送電線点検AIをご紹介します。
従来の送電線の点検では、山間部においてヘリコプターから撮影された映像を人間が目視でチェックしていました。そこで、ヘリコプターからの映像をAIが解析し、異常箇所があればその内容と位置を作業員に伝えることで、コスト削減のソリューションを開発しました。この例では、精度の観点では見落としのリスクが懸念される場面があります。
例えば、AIが送電線の傷を見落としてしまい、異常がないと判断してしまう場合です。この異常箇所の見落としがないことが前提となっています。その上で、正常な箇所を誤って異常と判断してしまうことはある程度許容しています。
その代わり点検作業員がAIをカバーしています。つまり、作業員がAIの結果を確認し、最終的に異常を判定する役割を担っています。それでも従来は多くの映像を人間が全て確認していたため、AIの活用によってコストは大幅に削減されています。
精度を高めれば高めるほど、つまり正常な箇所を誤って異常と報告しなくなるほど、作業員はコストを削減できます。このように、精度が高くなくても一定の効果が期待され、段階的に進化できるソリューションであれば、すぐに取り組むことをおすすめします。逆に言えば、そのようなソリューションの設計が重要となります。

AIに対する要求精度 運用コスト 実現可能性
AIのみ
人のみ(現状)
AI+人
▶導入事例はこちら:設備保全AIシステム開発事例‐東京電力パワーグリッド様

2.要求速度

要求精度と並んで重要なのがAIに対する要求速度です。
一般的にAIは精度を高めようとすると負荷がかかり処理が遅くなります。例えばニューラルネットワークでは、ネットワークの層が深くなればなるほど精度が向上する傾向があります。さらにディープラーニングではその層が深いので、より精度が高くなります。一方で、層が深いほど処理速度は遅くなります。
ここで重要なのは、このような処理速度が遅いソリューションを採用するかどうかを判断することです。例えばリアルタイムで製品の異常を検知するAIであれば、ある程度の処理速度が要求されます。一方で、送電線の映像から異常を検知するAIは高い精度が要求され、リアルタイム性が必要ないことから、処理速度が速くても遅くても大きな問題はありません。
このように、処理速度を考慮する必要があるかどうかで実現可能性が異なります。また、処理速度を考慮しない代わりにモデルを軽量化する手段も考えられますが、モデルを軽量化するには高い技術が必要になるため、実現可能性は低くなります。このように、AIに対する要求速度を考慮するかどうかで実現可能性は変わります。まずは処理速度の影響が少ないビジネス課題へのソリューションをから始めるとよいでしょう。

3.データ取得難易度

AIプロジェクトにおいて最も時間がかかるのが、データ収集フェーズです。もしスピード感を重視したい場合は、データ収集の難易度を確認する必要があります。ここではいくつかの観点を挙げて考えてみます。
まず、新しいデータを取得するのか、既存のデータを利用できるのかを確認します。当然ながら後者の場合、実現までのスピードは早くなります。新規データを取得する場合でも、実験を行うのか、既存の実績を利用するのかによっても異なります。特に製造業では、条件を統制し人が実験を行わなければいけない場合、ビッグデータを必要とする深層学習や機械学習とは一般的には相性が悪いと言えます。最近ではさまざまなアルゴリズムや手法でそれを克服できる場合もありますが、それだけ難易度が高くなるので製造プロセス中に蓄積できるデータを利用する方が実現可能性は高くなります。
次に、教師データの発生頻度も考慮すべきです。製造業の場合、故障データの活用などは需要が多いですが、実際にはデータが少ないことがよくあります。さらに、データソース間の紐づけの難易度も見落としがちです。データがあっても取得できなければ意味がありません。例えば、スマートファクトリーを目指す場合、異なる拠点間のデータを紐づける必要があるのか、工程間のデータを紐づける必要があるのかを確認してください。単一の工程や拠点内に閉じたソリューションであればデータの取得が容易であり、施策も実施しやすいため、実現可能性が高い場合が多いです。しかしながら、ビジネスへのインパクトも考慮しなければなりません。
最初は同一工程内や拠点内のソリューションを開発し、次にそれを広げていき、最後に必要であればそれらを統合したソリューションに進める方法をおすすめします。

4.データ品質

データの品質も非常に重要です。PoCを行う前にデータの品質調査を行い、実施の可否を判断する必要があります。以下にポイントを示します。
まず、データ品質調査では、集計を通じた分析に加え、定性的な観点も考慮することが重要です。画像データは定点から自動で撮影されるのか人手で都度撮影されるのか、分析対象は判別可能なほど精細に写っているのか否か、分析対象を写した際の角度は一定なのか毎回異なるのか、背景は常に同じなのか毎回変わるのかを確認しておきます。
一般的に、前者(定点撮影、精細、一定の画角、一定の背景)のほうが実現可能性は高い傾向にあります。様々な画角や背景といったバリエーションに富んだ画像データであれば効果が大きくなりやすいですが、その分実現が難しくなることが多いです。また、人手での画像データの撮影が主体である場合、品質の一貫性や信頼性に問題が生じる可能性があります。
このような場合、データの品質向上や自動化の方法を検討することが重要です。

5.問題の解きやすさ

最後に考慮すべき要素は、問題の解きやすさです。これはAIタスクの難易度とも言えます。AIの性能を事前に明確化できない理由の一つが、この問題の解きやすさにあります。ビジネスの現場では、多くの場合は問題の解きやすさははっきりとは分かりません。PoCを行わなければ正確には把握できませんが、ある程度の難易度を大まかに評価することで、優先順位を付けることができます。以下に、問題の難しさをざっくり判断する際のポイントを紹介します。

① 現在か将来か

AIは、未知の要素が増えるほど難しくなります。予測対象が将来であればあるほど、その間に発生する可能性のある要素が増えるため、難易度が上がります。例えば、レントゲンやMRIの画像から病気の診断をするソリューションを考えてみます。この場合は、現在の身体の状態から現在の病気を診断します。一方で、病気の予兆を捉えようとすると病気は現在の状態よりも未来の時点で発生するため、予測が難しくなります。このように時間のギャップが生じることで未知の情報が増えるということです。ギャップが大きいほど、つまり予測対象が将来であればあるほど、問題はより難しくなります。そのため、可能な限り現在の状況に対するソリューションを考えることで、実現可能性が高くなります。将来の予測は次のフェーズに取り組むことが望ましいです。

② 人が判断できるか

人が判断できることをAIにタスクとして与えるのか、人でも判断できないことをAIにさせるのかによって、難易度が分かれます。AIには後者を任せたくなるところですが、実は前者でも十分な価値がある場合が多いです。ここで重要なポイントは、タスクの種類や判断の速さ、遠さなど、認知能力を別として考えるということです。あくまで知能的に人が判断できるかできないか、が重要です。先ほど少し触れた、送電線の検知AIの例を挙げてみます。このAIは、山間部の送電線に異常がないかどうかを、ヘリコプターから撮影した動画から検知するものです。このようなタスクは、AIが得意とする分野です。AIは高速で動作し、小さな傷まで検出できるようになります。さらにAIは体力もほぼ無限ですし目も疲れません。このように、人が判断できることでも人にとって大変な場合は、AIに置き換えることで効果的なソリューションとなります。

③ 初心者・熟練者による判断

さらに一歩進めて考えると、タスクの難易度は、それが熟練者にのみ可能なものなのか、初心者でもできるものなのかによっても変わります。熟練者向けのタスクを代替することは、初心者向けのタスクを代替するよりも難しく、多くのデータが必要になることがよくあります。また、熟練者でさえ難しいタスクに取り組む場合は、さらに難しい挑戦になります。また、AIに熟練者の判断を学習させたい場合もあります。たとえば、メンテナンスが必要かどうかを熟練者なら判断できるため、故障のデータがなくても、熟練者の判断を正解としてAIに学習させることが考えられます。ただし、この場合、学習データには熟練者が付けた「正解ラベル」が必要です。しかし、熟練者は一般的に貴重で忙しく、データ収集の面でも難しさが増します。

ここまでで実現可能性の観点をまとめました。AIプロジェクトは事前に効果が不明瞭です。PoCのリスクを可能な限り抑えるため、以上の観点から実現可能性を確認し、ソリューションに優先度をつけて取り組むことをおすすめします。

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