TDSE株式会社

Vision3- 社会インフラ・建設業のための画像DX

画像DXとは

DXとはデジタルトランスフォーメーションの略で、デジタル技術を活用して企業のビジネスモデルやプロセス、組織文化を改革し、イノベーションを創出することを指します。そのDXの一環として、近年注目を集めているのが「画像DX」です。画像DXとは、ビジネス活動において画像解析技術を活用して課題の解決や新しい価値の提供を行うことを言います。
通信・社会インフラ/建設業界においては、画像DXを活用することで、様々な課題に取り組むことができます。例えば道路や橋などの社会インフラの点検、建物の構造物調査、電柱や送電線の劣化診断など、目視による判断が困難な場合に役立ちます。
次章以降では、画像DXの具体的な技術や実際のソリューションについて、詳しく解説していきます。

画像DXが注目される理由

近年、社会インフラの老朽化が問題となっています。社会インフラを支える施設の多くは、高度経済成長期に集中的に整備されてきたため、今後一斉に老朽化を迎えます。2040年には、建設後50年経過した施設の割合が道路橋で75%、トンネルで50%に達すると言われています1。しかし、老朽化対策の需要が増えている一方で、後継者不足の問題も深刻化しています。老朽化した施設には維持管理や再開発が必要ですが、人材不足により最低限の対策しかとられていない場合もあります。このため、業務プロセスの変革が求められています。

そこで、注目されているのがDXです。インフラ施設の老朽化への対応を見据え、国土交通省がi-Construction(アイ・コンストラクション)という取り組みでDXを推進していることはご存じかと思います。インフラ分野には多様な領域で課題が存在しますが、汎用的なソリューションとなるのが画像DXです。この画像DXによって、「人手不足の解消」「安全対策の強化」が実現できます。

1 国土交通省. “令和4年度版 国土交通白書”. 2022,https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r03/hakusho/r04/pdf/kokudo.pdf, p.118 (参照 2023-07-19).

1. 人手不足の解消

人手不足で特に問題となるのは、高度な技術を必要とする施設の保守・点検を行える作業員の不足です。従来の調査や点検作業では、現地に調査員を派遣する必要があり、人海戦術での目視確認が当たり前であったため、検査に大きなコストがかかっています。しかし、画像DXの技術を活用することで、無人でも高精度な調査や点検を実現することができます。これにより、作業時間の短縮や労働コストの削減が期待できます。

2. 安全対策の強化

施設の老朽化に伴い、安全対策の強化に関する需要が高まっています。過去に発生した災害や事故等から、防災・減災の重要性が一層認識されています。画像DXの技術を活用することで、危険物の漏出や火災などの異常な変化をリアルタイムに検知し、危険を事前に察知することができます。これにより、安全性の向上や迅速な対処が実現できます。

以上のように、通信・社会インフラ/建設業界においては、画像DXが注目され、様々な取り組みが進められています。

画像DXにおける基本的な技術

画像解析技術とはそもそもどのような技術なのでしょうか。特に、通信・社会インフラ/建設業界で活用されている技術に注目して見ていきましょう。
画像解析技術とは、画像から特定の対象物を検出、分類、識別するための技術です。近年では、深層学習技術の発展により、高い精度での画像の解析が可能となりました。この画像解析技術の基礎的な技術として以下の3つを紹介します。

1.物体検出

物体検出とは、画像や動画データから特定の物体を検出し、その位置や境界を特定する技術です。例えば、作業員の安全装備の着用状況や危険な行動の検出、危険物の漏出や火災の早期検知などが挙げられます。

2.セマンティックセグメンテーション(領域分類)

画像上に存在する物体をピクセル単位で検出する技術です。複数の領域(セグメント)に分割し、それぞれのセグメントにラベルを付ける技術です。例えば、道路や橋の特定の領域を抽出するために活用されることがあります。

3.異常検知

異常検知は、収集されたデータの中から正常なデータと異常なデータを区別して、異常なデータを検出する技術です。例えば、道路や橋などの構造物のひび割れや劣化などを自動的に検出することができます。

このように、画像解析の技術には様々な種類があります。通信・社会インフラ/建設業界では、安全点検や監視などに活用し、より効率的な業務を実現することが期待されています。

画像DXのソリューション例

通信・社会インフラ/建設業界では、様々な分野でDXが実現されています。
以下の「DXソリューションマップ(AI活用)」には、通信・社会インフラ/建設業界における典型的な業務区分ごとにDXのソリューション例を取り上げています。特に、赤字で示した項目は画像DXのソリューションを表しています。

     
Front 計画/設計(BIM) 受発注 施工管理 施工 運用・保守
施工計画支援 供給計画適正化 画像進捗推定 作業員装備検知 建設機械異常検知 運搬作業自動化 非侵入検査 問合せ自動応答
設計図検索支援 物流設備
メンテナンス自動化
エネルギー効率
最大化施工管理
作業員見守り用
異常行動検知
建設機械故障
予兆検知
採掘作業自動化 安全侵入経路提示 One to One
アフターフォロー
設計図による
費用見積もり
物流環境影響評価 温暖化ガス排出削減 作業員体調管理 強化学習による
機器自動制御
溶接作業自動化 劣化ランク判定 クレーム分類自動化
設計図標準化 物流異常検知 建設現場防犯用
異常検知
工期延長要因分析 熟練者技術解析 品質検査自動化 補修タイミング予測 点検自動化
土壌評価推定 最適在庫水準算出 建設機械
メンテナンス効率化
メーター自動読取 廃棄物処理自動化 建物メンテナンス
効率化
建物内設備
利用傾向解析
通信機器故障予兆検知通信トラフィック予測による輻輳防止
設備故障の原因分析通信品質の最適化
監視アラート優先付け
Back 経営 会計 人事/労務 その他
KPI構造最適化 需要予測 不正会計検知 会計書類自動読取 人材配置最適化 採用効率化 離職徴候検知 定型業務自動化
ブランド分析 ソーシャルリスニング 休職兆候検知 スキルマップ
自動更新
リードスコアリング

上に取り上げた画像DXのソリューションの中から、具体的に3つのソリューション「採掘作業自動化」「建設現場・インフラ施設の侵入検知防犯用異常検知」「点検自動化」について、詳しくみていきましょう。

1.採掘作業自動化

重機の自動制御にはIoTデバイスとAI技術の組み合わせが必要です。その中でも、地形や対象物の解析に画像解析技術が利用されることがあります。
採掘作業の自動化に必要な要素として重機の自動制御があります。この自動制御を実現には、IoTデバイスやAI技術を様々に組み合わせることが必要となりますが、画像解析技術も必要な技術の一つです。例えば、画像解析技術は、アームの関節位置の推定や、周囲の作業員の検出などに活用されています。
重機が使用される環境は、障害物や不安定な地形など危険が多い環境です。複雑な操作や制御が求められるため、人間の運転ミスや疲労によって、衝突や転倒などの事故が発生する恐れがあります。重機の自動制御が実現すれば、現場の悪条件をタイムリーに検出し自動制御することで、工事現場の安全性の向上が見込まれます。また、熟練度によらず経験の浅い作業員でも操作が容易となり、熟練者不足の解消が期待されています。

2.建設現場・インフラ施設の侵入検知用異常検知

異常検知技術を応用した監視システムでは、監視カメラの映像を自動的に解析し、危険区域への侵入や不審な行動をリアルタイムに検知することができます。
発電所、水道施設、通信基地局をはじめとした重要インフラ施設では、高度なセキュリティレベルが求められます。しかし、広いインフラ施設では死角が存在する上に、監視や巡回の業務には人手が多くかかります。画像AIを活用することで、人の目が届きにくい場所でもリスクをリアルタイムに自動検知できるため、セキュリティの向上や監視・巡回業務の省力化が実現できます。

3.点検自動化

建物や道路、橋梁などの構造物の点検において、ドローンや衛星画像などを用いた異常検知の技術が使われています。
構造物の目視点検の場合、非常に人的コストがかかる上に、見落としによる検知漏れが発生する恐れもあります。異常検知技術を活用することによって、構造物の劣化や欠陥を高精度で検出することができ、点検の効率化が実現できます。

各ソリューションとその活用技術をまとめると以下のようになります。

ソリューション 解決する課題 利用技術例
採掘作業自動化 人材不足解消 物体検出
セマンティックセグメンテーション
建設現場・インフラ施設の防犯用異常検知 安全対策強化
人材不足解消
物体検出、異常検知
セマンティックセグメンテーション
点検自動化 人材不足解消
業務効率化
異常検知
セマンティックセグメンテーション

これらのように、通信・社会インフラ/建設業界では、人材不足解消、業務効率化、安全対策強化などの目的で、画像DXが活用されています。今後も、技術革新が進む中で、さらなる活用の可能性が広がっていくでしょう。

画像DX推進上の注意点

1. データ分析結果を有効活用するための意思決定プロセスの設計

画像の解析によって得られたデータを有効活用するためには、分析結果をビジネス上の意思決定に反映させることが必要となります。しかし、それらをビジネス上で実際に活用するための手法や仕組みが整備されていないために、生産性の向上につながらないことがあります。このため、ビジネス部門とDX推進チームが緊密に連携し、AIを用いた新しい意思決定プロセスを設計することが重要です。

2. データ収集環境の複雑さと多様性を考慮したデータ収集基盤の設計

通信・社会インフラ/建設業界では、広範な地理的領域や複雑な施設において多種多様な画像データを収集する必要があります。しかしながら、アクセスの困難な場所や厳しい環境条件がデータ収集の制約となることがあります。このため、実現したいソリューションから画像データ収集方法を丁寧に設計することが重要です。例えば、ドローンやロボットを活用してアクセスの難しい場所から画像データを収集することができます。ただし、コストがかかる方法であるため、実現したいソリューションに基づいて必要十分なデータを収集する方法の設計が重要です。

3. MLOpsに基づく開発・運用基盤の設計

AI(≒機械学習モデル)は、構築した時点でどれだけ優れていたとしても、時間が経つごとに劣化します。AIを構築したときに使用したデータと、最新のデータの乖離が徐々に大きくなっていくためです。例えば、カメラの劣化によって、画像データの彩度、コントラスト、明るさなどが変化して、AIの精度が劣化することがあります。他にも、撮影機器の交換、撮影環境のレイアウト変更、撮影対象の経年劣化によって、AIに入力する画像データが学習時点とは乖離してしまう場合があります。
そこで、MLOpsと呼ばれる考え方に基づいて運用基盤を設計することが重要です。
MLOpsとは、「機械学習モデル(入力したデータの内容を評価し、結果を返す仕組み)の開発から運用」までをスムーズに進める手法のことです。
MLOpsの環境を築くことで、運用チームが「対象ユーザーに合った予測結果を出せているか」あるいは「入力画像が学習時点と乖離していないか」を監視し、機械学習・開発チームにフィードバックできます。それによりAIを最新のデータで再学習するといった対策や、撮影機器の交換などの対策を実施することが可能です。結果的に、AIの精度を保つことにつながります。

通信・社会インフラ/建設業界における画像DXの活用において、解決すべき課題とその解決策について紹介していきました。画像DXを成功させるために、上記のポイントに注意してPJを推進していきましょう。

画像DXを始めるためにまず取り組むべきこと

通信・社会インフラ/建設業界において、画像DXを推進する企業は増加しています。画像DXによる効率化によって、業務の改善やコスト削減が期待できるためです。では、画像DXを始めるためには何から取り組むべきでしょうか。企画・計画の段階として考えておくべきこととして、「分析基盤の整備」「技術者の育成」「ツールの導入検討」の3点を取り上げます。

1. 分析基盤の整備

画像DXによるソリューションを継続的に運用していくには、先に述べた通りMLOpsと呼ばれる考え方が必要です。まずは、高速で大量のデータを扱えるクラウド基盤やデータ基盤の整備が必要です。また、MLOpsの思想に基づいたデータ処理のパイプラインの構築などの技術的な準備も必要です。

TDSEではMLOpsの考え方に基づいた分析基盤構築を支援するサービスを提供しています。

2. 技術者の育成

画像DXには、深層学習や画像処理などの高度な技術が必要です。このため、必要な技術者を採用・育成することが欠かせません。また、外部の専門企業との協業やアカデミックとの提携なども視野に入れることもおすすめします。
以下のリンクでは、DX人材育成のためのステップについて解説しています。

3. ツールの導入検討

AI開発には「レディメイド型」と「カスタム型」の2つの方法があります。
レディメイド型は、学習済みのAIをシステムに組み込む方法です。一般的な課題、すなわち、世の中の多くのユーザーに共通する課題に対しては、システムにそのまま組み込むだけで、直接のソリューションとなる場合も多いです。
レディメイド型は手っ取り早い方法ですが、学習済みのAIをシステムに組み込むだけでは必ずしも解決しない課題も存在します。この場合、カスタム型のアプローチを検討しましょう。
カスタム型は、自社の課題に合わせて一からAIを構築する方法です。しかし、カスタム型でAIを導入する際には非常に時間がかかります。そこで、AutoMLをはじめとする機械学習モデル開発をサポートするツールが存在します。このようなツールを導入することで、効率的に画像AIの開発を進めることが可能となります。

まとめ

通信・社会インフラ/建設業界において、人手不足解消や安全対策強化へのソリューションとして、画像DXが注目されています。画像DXを成功させるためには、データ収集環境の複雑さと多様性を考慮して分析基盤を設計すること、MLOpsに基づく運用基盤の設計、データ分析結果を有効活用するための意思決定プロセスの設計がカギとなります。また、DXを推進するには、プロジェクトを組織し、段階的に取り組んでいくことが大切です。まずは、分析基盤の整備、技術者の育成、ツールの導入検討から進めていきましょう。
今後も、通信・社会インフラ/建設業界における画像DXの実現によって、更なる業務プロセス効率化と施設や現場の安全性の向上が期待されます。

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