Vision4 – 小売業のための画像DX

小売業における画像DXとは?
小売業界でもデジタル化が進み、顧客により良いサービスを提供する上でDX(デジタルトランスフォーメーション)は必要不可欠となっています。DXの中でも、昨今注目を集めているのが、「画像DX」です。画像DXとは、画像解析技術によって商品やサービスに関する画像データを活用し、ビジネスプロセスの変革を図るものです。
画像DXが昨今注目を集めている理由には、画像データの取得に必須であるイメージセンサが安価で導入可能になったことや、深層学習やエッジAIの技術の発展により実現可能性が高くなったことなどが挙げられます。さらに、画像を用いたソリューションは結果が目に見えてわかりやすいため、社内でのDX推進がしやすいことも一つの理由でしょう。特に小売業では、画像解析によって、商品の特徴や種類、在庫状況、顧客動態など、多くの情報を画像から抽出することが可能になっています。画像解析技術は、今後より一層注目すべきテクノロジーの1つであり、ビジネス競争力を高める上で重要な要素となるでしょう。
次章以降では、画像DXの具体的な技術や実際のソリューションについて、詳しく解説していきます。
画像DXが注目されている理由
アフターコロナ時代のカスタマーの行動変化
近年、コロナ禍及びアフターコロナを経てカスタマーの購買行動は大きく変化しました。コロナ禍では外出自粛の影響でオンラインでの買い物が増えた一方、アフターコロナとなり実店舗に出かけるカスタマーも増えています。オンライン・オフラインどちらも利用するカスタマーが増えたことにより、オムニチャネル戦略の必要性が高まっています。例えば、アプリにポイントカードを組み込み、実店舗とECサイトをつなげる試みは広くなされています。そのため、オンラインとオフラインでの購買体験をシームレスにつなげる画像DXは、カスタマーの行動が変化したアフターコロナの時代に重要な役割を担っています。
オフライン店舗での購買行動の多様化
カスタマーの行動の変化の影響はチャネルの多様化にとどまりません。オフラインの店舗においてもまた、カスタマーの行動は変化しています。コロナ禍の影響で、非接触の必要性から無人店舗の需要が徐々に大きくなっています。無人店舗の需要が高まっている理由は感染予防にとどまらず、迅速な支払いや営業時間が長いなどの理由で無人店舗を志向するカスタマーも存在します。このため、アフターコロナにおいても無人店舗の需要は今後も増えていくでしょう。このような顧客の購買行動の多様化に対応するために必要となるのが、画像解析技術を用いたソリューションです。今や画像DXなしに競争力を維持することは難しくなっています。
画像DXが必要な理由
1. 実店舗とオンラインストアの情報連携の重要性
オムニチャネル戦略では、オンラインストアでの商品検索や在庫管理、実店舗での商品陳列など、両方の販売チャネルにおいて顧客ニーズに応えることが求められています。例えば、顧客が商品をオンラインで見つけた後に、店舗で実際に商品の様子を確認して購入することがよくあります。この場合、店舗での商品の在庫状況をリアルタイムで把握し、顧客に迅速かつ正確な情報を提供することが求められます。ここで、画像解析AIが重要な役割を果たします。例えば、店内の在庫棚に設置されたカメラを使って、商品の在庫状況を自動的に認識し、商品のバーコードをスキャンするだけでなく、商品の画像から自動的に商品情報を取得できるようになります。 これにより、商品の特定が容易になり、レジ作業の効率化や、スムーズな会計処理が可能となります。加えて、この画像認識を利用したソリューションは、POSへの商品登録に比べて、在庫管理の省力化やカスタマーの待ち時間の減少を達成できるという点で優れています。
2. 無人店舗の運営での品切れ・盗難対策の必要性
小売業界において無人化は、従業員の人件費削減や24時間営業などの利点があります。しかし、無人化によって品切れや盗難などが発生し、商品の在庫管理や監視体制が損なわれる可能性があります。この問題を解決するために、画像DXが必要です。具体的には、店舗内に設置された監視カメラから得られる映像データをAIが解析し、商品の在庫数や品切れ状況を検知することができます。さらには、潜在的な不審者に対して犯罪を行う障害となり抑止効果が期待できます。加えて、店舗でのカスタマーの安心感が向上することで顧客満足度が増し、ブランドイメージの向上につなげることができます。また、カスタマーの購買行動を分析・可視化し、店内のレイアウトの最適化を支援することも可能です。このように、AIによる画像解析技術を取り入れることによって、無人化による利点を最大限活かしながら、店内の監視体制や顧客の利便性を担保することができます。
画像DXにおける基本技術
画像解析技術は、カメラやセンサーなどで取得された画像情報を解析し、物体の特定や判別、分類を行う技術です。
一般的に、画像解析技術の基礎的なものとしては以下の3つが挙げられます。
1. 物体検知:画像中に写っている物体の位置や種類を認識します。例えば、Amazonの無人店舗AmazonGoなどの無人レジで商品を読み取る際に、商品の位置を正確に検知するために利用されます。
2. 画像分類:画像に写った物体が何であるかを識別します。例えば、商品の形や色からどの商品かを識別する際に利用されます。
3. セマンティックセグメンテーション(領域分割):認識した画像中のオブジェクトをラベル付けします。
これらの技術を応用して、小売業界では様々なソリューションが展開されています。次章では画像DXのソリューションを紹介します。
画像DXのソリューション例
小売業界では、DXの実現に向けて様々な取り組みが行われています。以下の「DXソリューションマップ(AI活用)」には、小売業界における典型的な業務区分ごとにDXのソリューション例を取り上げています。特に、色付きの項目は画像DXのソリューションを表しています。
Front | マーケティング | 生産・流通 | 店舗運営・EC | 接客・販売 | CRM |
---|---|---|---|---|---|
ダイナミックプライシング | 需要予測による サプライチェーン最適化 |
商品需要予測による店舗在庫管理 | カメラ画像を活用した接客高度化 | 顧客離反分析 | |
広告宣伝費の予算配分最適化 | 流通業における物流量予測 | フランチャイズ店における キャンペーン最適化 |
画像解析による 館内施設混雑状況認識 |
購入データに基づく 顧客セグメンテーション |
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広告効果要因分析 | 倉庫内商品の配置最適化 | ECサイト商品表示順レコメンド | 顔認識による生体認証を用いた 入退室管理 |
音声データの自然言語処理 による案件重要度仕分け |
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クーポン差配最適化 | 貨物車両動態管理 | 顔認識AIを用いた 年齢認証ソリューション |
多言語案内チャットボット | 商品レビュー・口コミ分析 | |
DM(ダイレクトメッセージ) 送付最適化 |
サプライチェーン寸断リスク監視 | 画像解析技術を用いた 防犯ソリューション |
AIスピーカーによる商品購入 | カスタマーサポート チャットボット |
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新規出店最適化分析 | 生産ラインにおけるAIによる 異常検知・監視 |
来客属性に応じた デジタルサイネージ |
接客AIプラットフォーム | ニーズ調査のための SNS分析ツール活用 |
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アプリ導入施策に対する 効果推定①② |
対話型AIによる不在宅配達の低減 | 実店舗とECサイトの データの一元化 |
バイタルモニタリングサービス | WEBデータを用いた 顧客の拡散力分析 |
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画像特長による類似商品検索 | 画像解析による商品自動識別 | ||||
Back | 人事 | 経理・財務 | 法務 | ||
離職者の兆候調査 | 不当経理検知 | AIによる契約書レビュー自動化 | |||
人事配置最適化 | 社内AI-FAQソリューション | 法律文書特化型AI翻訳 |
上に取り上げた画像DXのソリューションの中から、具体的に3つのソリューション「画像解析による自動精算」「画像解析技術を用いた防犯ソリューション」「画像特徴による類似商品検索」について、詳しくみていきましょう。
画像解析による自動精算
従来の無人レジではバーコードスキャンなどが必要であるため、店側はレジ業務の省力化ができる反面、カスタマーの利便性が下がってしまう面があります。しかし、画像解析技術を活用した無人レジであれば、カスタマーの利便性も高めることが可能です。画像解析技術を用いてレジでのバーコードの読み取りの時間を減らすことで、レジ業務の省力化とカスタマーの利便性を両立することができます。また、店舗内での行動履歴からカスタマーがどういった嗜好で商品を求めているかが解析できるため、カスタマーにマッチしたクーポンを配布し売り上げを向上させることも可能です。このように画像DXのソリューションによって、業務の省力化と利便性の向上が可能となり、売り上げの上昇も同時に実現できます。
画像解析技術を用いた防犯ソリューション
画像解析技術は、小売業が抱える不明ロスという課題に対する解決策として注目されています。不明ロスとは、売上に対して実際に在庫から消えた商品の数の差異のことを指します。この不明ロスによって在庫不足や利益率の低下といった問題が発生しています。不明ロスは原因が多岐にわたりますが、原因の一部として万引きや店員による持ち出しなどの不正行為により発生する不明ロスが挙げられます。 小売業者は店内防犯カメラを使用して不正行為を監視していますが、常時監視の人員確保や長時間の録画の確認は現実的でない場合が多いです。この問題に対処するために、画像解析技術が注目されています。画像解析技術によって、リアルタイムに不正行為や異常な動きを検出することが可能です。これにより、商品を盗もうとする人や、レジで不正な返品をする従業員の行動を検出し、自動でセキュリティ担当者やマネージャーにアラートを通知することが可能です。このソリューションによって、監視カメラの映像を1つ1つ確認する手間が省くことができ、効率的な不正行為の予防・発見につながります。
画像特長による類似商品検索
オンラインストアでは、利用者が商品を選択しやすいように多数の商品写真が掲載されています。しかし、テキストでは表現が難しい商品の特徴や検索キーワードがわからない特徴の場合は、多種多様な商品の中から欲しい商品を見つけることが難しい場合があります。このような課題に対する解決策の一つが、画像特徴による類似商品検索です。画像解析技術を用いて商品画像の特徴を抽出することで、利用者が撮影した画像やストア内の商品写真をもとにして、該当の商品や類似デザインの商品を検索することができます。これによって、利用者はより迅速に、効率的に欲しい商品を探すことができます。
各ソリューションとその活用技術をまとめると以下のようになります。
ソリューション | 解決する課題 | 利用技術 |
---|---|---|
画像解析による自動精算 | 人材不足の解消、無人レジの利便性向上 | 物体検出 セマンティックセグメンテーション 3Dセンシング |
画像解析技術を用いた防犯ソリューション | 不明ロス減少 防犯対策強化 |
物体検出、異常検知 セマンティックセグメンテーション 顔認識 |
画像特長による類似商品検索 | オンラインストアの利便性向上 実店舗とのシームレスな連携 |
物体検出、物体認識 セマンティックセグメンテーション 特徴抽出 |
このように、画像技術は小売業界の様々な場面で活用され、その効果が期待されています。
画像DXの推進上の注意点
画像DXを進める上では以下の点に注意が必要です。
1. プライバシーへの配慮
データの中でも画像はカスタマーの顔の情報など特にセンシティブな情報が含まれる可能性の高いものです。センシティブな情報をデータ分析で用いる場合はプライバシーの侵害のリスクがあります。これらのリスクに対しては事前にデータの扱いについて問題がないか検討を行うことが重要です。また、実現したいソリューションが画像以外で実現できないかについても検討しましょう。
2. 商品の変化
小売店では商品の陳列や値段が頻繁に変動します。また、季節やイベントに合わせた商品の追加・変更もよく行われます。そのため、画像解析AIが学習した過去のデータと現在のデータが異なり、認識不能となってしまうことがあるのが小売業におけるDXの特徴です。対策としては、マスターデータを常に最新の状態に保ち、変更された商品がある場合は、新しいデータを追加することで商品の変化に対応することができます。
3. データの質
画像解析AIによる正確な判断には、高品質なデータほど実現可能性が高く見込まれます。画像認識では、画像の解像度や画角、背景や照明の状況などによって、認識精度が変化するため、データの収集方法や品質に注意する必要があります。画像収集方法の設計は重要なポイントです。そのため、高品質なデータの撮影には実際に分析を行うデータサイエンティストの知見も重要です。 設計段階から現場だけでなくデータサイエンティストも早期参画し、可能な限り手戻りの少なくなるよう協力体制を築きましょう。
以上、小売業界で画像DXを推進する際の主な注意点とその解決策を紹介しました。これらのポイントを抑え、実際の店舗に最適化されたシステムを導入することで、より正確なデータを収集・分析し、ビジネスの効率化に貢献することができます。
画像DXを始めるためにまず取り組むべきこと
本節では、小売業界における画像DXにおいて、まず取り組むべき課題について概説します。
1.分析基盤の整備
画像解析技術により画像DXを達成するには、高品質なデータに基づく学習が必要です。また、画像解析技術により生成されるモデルやアルゴリズムの精度を保つには大量の画像データが必要です。 このため、画像DX を導入するうえでは、データ分析基盤を整備することが重要です。
具体的には、MLOps(※)の考え方に基づいたプラットフォームを構築することにより、データ収集・前処理、モデル学習・評価、モデルの本番環境への展開までの一連の流れを統合的に管理することが求められます。
また、必要なデータの収集手段を確保し、データ品質の向上を図ることも重要です。具体的には、商品画像の撮影環境の固定化や、商品に関する情報(商品名、価格など)の正確性を確保するような取り組みを行う必要があります。
2.技術者の育成
画像DXを進めるために必要な技術は高度なものであり、技術者の育成が求められます。したがって、企業においては、画像解析技術に関する知識を持ったエンジニアを育成することが必要です。そのためには社内での勉強会開催等による技術向上の取組は当然のこと、技術の進歩が速いDX関連技術ですので、特に社内外のイベントに積極的に参加することで常に最先端の技術をキャッチアップすることは競争力の維持のために重要なポイントとなります。
3.ツールの導入
画像DXを推進するには、ツールの導入も必要です。具体的には、自社で開発を始める前に、画像解析に特化したツールやライブラリを導入し、スモールスタートで効率的な開発を行うことが求められます。また、導入するツールについては、コストやメンテナンス性なども考慮する必要があります。そのため、導入前にはしっかりと検討を行うことが必要です。
まとめ
小売業において、画像DXはオムニチャネル戦略や店舗の無人化の取り組みの中で注目されています。画像解析技術は、オンラインストアにおいて顧客の利便性を高めることや、店舗において商品の管理やセキュリティ強化のためのソリューションとして活用されています。
また、画像DXを進めていく上での注意点として、プライバシーへの配慮、商品の変化への対応、画像データの品質に関する課題も紹介しました。
上記のポイントに注意しながら、段階的に取り組んでいくことが大切です。 まずは、分析基盤の整備、技術者の育成、ツールの導入検討から進めていきましょう。
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