近年「データ利活用」が注目され、導入する企業が増えています。データ利活用とは、さまざまなデータを用いてビジネスの現状把握や戦略立案、新しいビジネスの創出などに役立てることです。
しかし、「実際どのようなものなのか、どんな効果が得られるのかいまいちわからない」という方もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、データ利活用で得られる効果と重要なポイントなどについて説明します。業界ごとにデータ利活用の事例も紹介しているので、ぜひご一読ください。
なお、データ分析の流れや具体的な方法は、下記の資料で紹介しています。「データを使ってどのようなことができるのか知りたい」という方は、お気軽にダウンロードしてご覧ください。
目次
データ利活用とは?
データ利活用とは、「データを収集・分析して業務の効率化や生産性を向上させ、ビジネス変革に役立てる」ことです。
ビッグデータと呼ばれる「人間では把握することが困難な膨大なデータ」の中から、自社の目的に合ったデータを取り込みます。
そのうえでデータ分析することで、下記のようなことが可能になり、結果的に売上アップや新しい価値の創出につながるのです。
- ・ビジネスの現状を正確に把握する
- ・客観的な根拠に基づいて意思決定をおこなう
- ・ビジネスの戦略を立案する
近年、データ利活用はさまざまな企業で注目されています。総務省の調査結果によると、「大企業は約9割、中小企業は半数以上」がデータ活用に取り組んでいることがわかりました。
データ利活用が注目されている背景には、インターネットのネットワーク環境が進化したことや、深刻な人手不足に陥っている状況が考えられます。
データ利活用の目的
データ利活用の目的は、経営課題を解決することです。企業の中には、長年の勘や経験に頼って意思決定しているところもあります。
しかし、人間が保有できる情報の量には限りがあります。どれだけ業界経験が豊富な人でも、何万人もの顧客情報を正確に記憶して、一人ひとりに合った対応を導き出すことは困難です。
データ利活用に取り組むことで、過去の出来事から共通点や特徴を見出して、とるべきアクションを導き出せます。
客観的なデータに基づいて、速やかに意思決定をおこなえるようになるため、売上増加やコスト削減などの課題解決につながります。
データ活用とデータ利活用の違い
データ活用とデータ利活用の大きな違いは、ビジネスで成果を出せるようにデータを活かすかどうかです。具体的には下記の違いがあります。
- ・データ活用:自社にすでにあるデータをビジネスに活かすこと
- ・データ利活用:新規・既存問わず目的にあったデータを収集し、ビジネスに活かすこと
データ活用は、企業や組織に蓄積されたデータを利用して活かすことです。
しかし、「このような経営課題があるから、それを解決するためにこういうデータが必要」のように目的から逆算してデータを収集しないため、成果につながらない場合もあります。
一方で、データ利活用は目的に応じてデータ収集や分析をおこなうため、よりビジネスモデルの改善や戦略立案に活かすことが可能です。
それではデータ利活用には具体的にどのような分析手法があるのか、詳しく見ていきましょう。
データ利活用で使われる4つの分析手法
データ利活用で使われる分析手法には、下記の4つがあります。
- 記述的分析
- 診断的分析
- 予測的分析
- 処方的分析
どのような手順でデータから情報が導き出されるのか、大まかな流れを見ていきましょう。
手法1. 記述的分析:過去から現在までの出来事を見える化する
記述的分析はもっとも基本的な分析方法です。大量のデータを集計したうえで、過去から現在までに起きた出来事を「見える化」して分析します。
集計結果を円グラフや棒グラフ、表などで可視化することで、下記のようにデータを理解しやすくなります。
- ・年次売上レポートを作成したいとき
- ・契約件数や商品購入数が想定どおりか知りたいとき
記述的分析を実施することで、「これまでに何らかの問題やシグナルが出てないか」を調べられるのがメリットです。
手法2. 診断的分析:出来事の要因を分析する
診断的分析とは、記述的分析で可視化した情報に対し、「なぜ、このようなことが起こったのか?」を探る手法です。
下記のとおり、過去に起こった出来事の理由を見つけ出したいときに役立ちます。
- ・売上が増加(減少)した理由を知りたいとき
- ・下期に顧客が離脱した理由を知りたいとき
- ・特定の商品が成果をあげた理由を知りたいとき
診断的分析ではより深くデータを見ることで、「○○という理由により、前年比で売上が増加した」のように要因を見極めることが可能です。
手法3. 予測的分析:過去のパターンを基に予測する
予測的分析とは「特定の出来事が、どのくらいの確率で起こるのか」という予測を立てる手法です。過去のデータと最新のデータを分析し、将来起こりそうな出来事を導き出します。
予測的分析は、次のように「これから起こる未来を見越して、あらかじめ行動をとりたい」場面で有効です。
- ・最適な商品価格を設定する
- ・不正行為を検出する
- ・機械が故障する前にメンテナンスをおこなう
なお、予測的分析で精度の高い予測結果を出すには、品質が良く一貫性のあるデータを収集する必要があります。
手法4. 処方的分析:とるべきアクションを導き出す
処方的分析は、上記3つの手法を踏まえて「今どのようなアクションを起こすのが最善なのか」を導き出す分析手法です。
今後起こり得るリスクを回避したり、市場の流行にすばやく対応できるよう準備しておいたりする際に役立ちます。
- ・保険業界で顧客リスクを算出し、提案すべきプランを決定する
- ・顧客が求める商品を分析し、市場で確実に売上を伸ばせる商品を見極める
「社内外のさまざまなデータやビジネスルール」を組み合わせて知見を得る必要があるため、4つの分析手法の中でもっとも複雑なやり方です。
ここまでデータ利活用の概要を説明しましたが、実際に得られる効果も見ていきましょう。
データ利活用によって期待できる3つの効果
データ利活用で期待できる効果は、主に下記の3つです。
- ビジネスの現状を把握し、改善できる
- 根拠に基づいて素早く意思決定ができる
- ビジネスの戦略立案や新しい価値を創出できる
順番に説明します。
効果1. ビジネスの現状を把握し、改善できる
1つ目の効果は、ビジネスの状況を把握して改善できることです。データ利活用を取り入れると、ビジネス上のさまざまな課題がデータにより可視化されるため、状況を正確に把握できます。
そのため、「実績が良い・悪い」「新商品が売れている・売れていない」と肌感覚で判断するのを防ぐことが可能です。
売上回復につなげる施策を打つなど、具体的なアクションを起こしやすくなります。
例えば、データをリアルタイムで集計することで、「消費者の購買意欲が高まっているタイミングで、適切な商品を提案する」のように活かすことが可能です。
また、データ分析により「業務における無駄」を見つけやすくなるため、コスト削減や効率化にもつなげられます。
効果2. 根拠に基づいてすばやく意思決定ができる
根拠に基づいてすばやく意思決定ができることも、データ利活用によって期待できる効果です。
「長年の経験や勘」という主観的な判断では、多様化した顧客ニーズに応えることは困難です。
また、どのような施策を打つべきか話し合うことに時間をかけすぎると、市場の変化に対応できず、競合他社に出遅れる恐れもあります。
データ利活用によって、客観的なデータを基に、あらゆるビジネスシーンでスムーズに意思決定することが可能です。
信頼性の高いデータに基づいた判断なら、社内の賛同を得てアクションを起こしやすくなるメリットもあります。
効果3. ビジネスの戦略立案や新しい価値を創出できる
3つ目の効果は、ビジネスの戦略立案や新しい価値を創出できることです。
前述した4つの分析手法を用いることで、過去の出来事を見える化し、そこから成功パターンや失敗パターンに共通する要素を見つけ出せます。
例えば「自社で特に売れている商品の特徴」がわかれば、同じような特徴をもつ商品を提供してみるなど、新しいアプローチを検討することが可能です。
また、複数の顧客データや購買データなどを組み合わせることで、今まで気付かなかった顧客のニーズを発見できることもメリットです。
ニーズを取り入れた新商品や新サービスを開発できるため、より顧客に選ばれる可能性が高まります。
以上のように、データ利活用によってさまざまな効果が期待できます。とはいえ、どのようなデータでも取り入れれば良いわけではありません。
データ利活用で重視すべきポイントを説明しますので、続けてご覧ください。
データ利活用で重視すべき4つのポイント
データ利活用で重視すべきポイントには、次の4つが挙げられます。
- 現状の課題を明確にする
- 目的を決めてからデータを取得する
- まずは小規模で検証してPDCAを回す
- 価値創出を確かめてから、業務として回せる仕組みを構築する
詳しく見ていきましょう。
ポイント1. 現状の課題を明確にする
1つ目のポイントは、現状の課題を明確にすることです。そもそもデータ利活用は、ビジネス課題を解決するための手段のひとつです。
「自社の課題ははっきりしていないが、データを集めれば何かしらのヒントが得られるだろう」のように、とりあえずデータを収集しても望んだ結果は得られません。
方向性が定まらないため、「たくさんデータは集まったけど、どれを何に活かせば良いのかわからない」など、途中で迷いやすくなるからです。
例えば、よくある経営課題は下記のとおりです。
- ・ブランド力の向上
- ・売上の増加
- ・生産コストの削減
- ・人材の確保、育成
売上や組織内の状況、業務フローなどを見つめ直し、自社の課題を洗い出しましょう。
ポイント2. 目的を決めてからデータを取得する
課題が明確になったら、次はデータ利活用の目的を決めましょう。
最初に目的を明確にしていない場合、「ビッグデータを活用すること」や「AIを導入すること」そのものに目が向きやすくなります。
このような状況では、データ利活用の環境が整っても、何のために実施するのか見失ってしまう可能性が高いです。結果的に、社内に定着しにくくなってしまう問題も起こり得ます。
例えば、小売業の場合は下記の目的やデータが考えられます。
- ・経営課題:売上の増加
- ・データ利活用の目的:店舗ごとに最適なキャンペーン施策を実施し、売上の増加につなげること
- ・必要なデータ:過去数年分の店舗別のデータ、キャンペーン情報、売上情報など
このように、目的を明確にして、課題を達成できるようなデータを入手することが重要です。
ポイント3. まずは小規模で検証してPDCAを回す
3つ目のポイントは、小規模で検証してPDCAで回すことです。いきなりデータを利活用しようとしても、下記のような原因でスムーズに進まないことがあります。
- ・準備が整っていない
- ・適切な人材がいない
- ・既存のやり方を変えたくない
そのため、まずは小規模でPoC(新たなアイデアの実現性や効果を検証すること)を実施し、PDCAを回してみることがおすすめです。
例えば、社内の特定の部署だけでデータを活用し、「期待するような効果は得られるか」「そもそもデータ分析できる人材が足りているか」などを判断します。
このような検証を経てデータ利活用の価値を確かめることで、全社に拡大させた後も定着させやすくなります。
ポイント4. 価値創出を確かめたら、業務として回せる仕組みを構築する
データ利活用により価値を創出できるとわかったら、データ利活用を「業務として回せるプロセス・仕組み」を構築していくことが重要です。
弊社の経験上、データ利活用を仕組み化できない場合、「このデータは役立つね」だけで終わってしまう可能性が高いからです。
また、データ利活用を単に業務オペレーションに組み込んだだけでは、特定の担当者に属人化してしまい、継続しにくくなります。
具体的には、AIを導入して、人を介さずに機械学習モデル(入力したデータの内容を評価し、結果を返す仕組み)を維持・運用できるようにするなどです。
なお、機械学習モデルで需要予測できるようになれば、安心なわけではありません。トレンドの変化や代替品の登場などによって、需要が変わることが考えられるからです。
開発当初は高い予測精度だった機械学習モデルも、精度が低下しビジネスへの効果が薄れる可能性が出てきます。
データを放置したままにすると「正しく予測できないシステム」とみなされ、利用されなくなる状況も起こり得ます。
そのためにも、人に依存せずにシステム化し、モデルを維持・運用できるような仕組みを作りましょう。
各業界におけるデータ利活用の3つの事例
下記3つの業界における、データ利活用の事例を紹介します。
- 小売業界
- 保険業界
- 製造業界
他社の事例を知ることで、自社にデータ利活用を導入する際のイメージが湧きやすくなります。では、順番に見ていきましょう。
事例1. 小売業界
小売業ではローソンの事例を紹介します。
ローソンは従来もPOSデータや会員データを活用していたものの、「顧客の本当のニーズを知るためには、事実のデータだけでは足りない」ことに気付きました。
そこで、「顧客が店舗に入店してから退店するまでの行動」をデータとして取得。入店時や購入時などの各ステップで、確率を高める施策を考案する方針にしました。
このようなデータ利活用により、1つの店舗に約3000種類の商品を置き、何十種の商品を毎週入れ替えて多様化するニーズに対応できるようにしています。
事例2. 保険業界
保険業界のアフラック生命では、顧客接点の強化を目的として、「データ分析基盤の構築」や「AIによるデータ分析」に取り組んでいます。
アフラック生命は、「コンタクトセンターの優秀なオペレーターの会話術」を分析することに着目しました。
優秀なオペレーターの会話内容を抽出し、他のオペレーターに横展開することで、会話の品質が向上するように仕組み化したのです。
その結果、「顧客へのサービス向上」や「オペレーター稼働時間の効率化」などに効果があったと公表しています。
事例3. 製造業界
製造業界のホンダ社では「自動車の走行データ」を利活用して、データサービス事業を展開しています。
具体的には、走行データをリアルタイムに分析し、「周辺の渋滞路や迂回路」を通過した場合の所要時間を計算しました。
現在の道路状況をドライバーに知らせることで、渋滞路ではなく迂回路を選ぶように働きかけることが可能になったのです。
また、栃木日光市でおこなわれた実証実験では、「指定ルートの最長所要時間を、85分も短縮できた」と明かしています。
このように、AIは需要予測や異常検知など、さまざまなシーンで活用することが可能です。
とはいえ、AIにも得意なことや苦手なことはあるため、「自社に導入しても活用できそうか」が気になる方は、下記の記事をご覧ください。
データ利活用を進めて自社の課題を解決しよう
データ利活用に取り組むことで、ビジネスの現状を把握して改善したり、新しい価値を創出したりする効果が期待できます。
まずは自社の課題や、データ利活用をおこなう目的を明確にしたうえでデータを収集しましょう。小規模で検証を繰り返し、ビジネスへの価値が出せることを確認したら、仕組み化して継続させることが重要です。
今回説明したデータ利活用の具体的な方法は、下記の資料で詳しく紹介しています。気になる方は無料でダウンロードのうえ、ぜひご覧ください。