前回の記事では、価格戦略を変革することの必要性や、競争力を高めるためにDXが重要であることを解説しました。今回は小売業が価格戦略のDXを推進する具体的な方法について、詳しく紹介していきます。
イメージしやすいように過去の解決事例をもとに3ステップでまとめましたので、ぜひご一読ください。
まずは前回の内容をあらためて振り返ってみましょう。
目次
小売業の価格戦略に変革が必要な4つの理由
小売業が従来の価格戦略を変革すべき理由は、下記の4つです。
- SDGsへの取り組みが求められているため
- 世の中の変化が激しく、従来の価格戦略では追いつかないため
- 少子高齢化・人口減少により、収益を上げにくい状況のため
- Eコマース化が進み、競合と価格比較されやすいため
在庫を最適化して廃棄ロスを削減し、日本国内で収益性を上げるためには、消費者の多様化するニーズに対応できる価格戦略が欠かせません。
※詳細については前回の「小売業が価格戦略を見直すべき4つの理由!利益の最大化を目指すには」をご覧ください。
では小売業の価格戦略に必要な変革とは、何なのでしょうか?次の項でお伝えします。
小売業の価格戦略に必要な変革はDX
パーソナルプライシングやダイナミックプライシングなど、さまざまな価格戦略の手法がありますが、共通しているのは「DX(デジタル技術を利用してビジネスモデルを変革すること)」です。
属人的なプライシングではなく、下記のようにデジタルを用いた戦略的な価格戦略を実施する必要があります。
戦略 | 詳細 |
---|---|
パーソナルプライシング | 人によって価格を変える手法
例:アカウントの購入履歴から価格を算出する |
ダイナミックプライシング | 商品・サービスの需給に応じて価格を変える手法
例:電子棚札がある店舗の場合、消費期限が近づいたタイミングで値下げを反映する |
クーポンやポイント還元を利用したOne to One施策 | 消費者の属性や行動に応じたクーポン配布やポイント還元を行う
例:消費者の属性情報や過去の購買履歴を分析し、消費者ごとに最適な種類のクーポンを配布する |
どの戦略を用いるにしても、電子棚札の導入や購買履歴・防犯カメラデータの取得など、デジタルの活用が欠かせません。
「一定の時間になったらとりあえず値引きする」「店長の感覚や経験で値段を決める」といったアナログなプライシングでは、変化の激しい現代では、機会損失が発生するリスクがあります。
それでは小売業で価格戦略のDXを推進するためには、具体的にどうやって行えば良いのでしょうか。
小売業の価格戦略DXの進め方3STEP
小売業の価格戦略DXを推進する際は、大きく分けて下記のステップで実施します。
- 課題を定義する
- 課題を解決するために必要なデータ基盤を整備する
- 課題を解決するソリューションを開発する
企業の課題内容や手法によって詳細は異なるため、ここでは弊社が過去に解決した事例をもとに、具体的な進め方を紹介します。
STEP1.課題を定義する
まずは自社の価格戦略において、どのような課題があるのかを定めます。課題を定義することで、DXの推進に必要なデータや解決方法を選定できるからです。
弊社がサポートした事例では、「値下げの判断が各店舗に依存しており、標準化されていない」ことが課題でした。例えば次のように、店長のノウハウや手腕次第で利益が下がってしまう店舗が存在しており、機会損失が発生している状況でした。
- ・新人店長の場合、価格を下げ過ぎて在庫切れになる
- ・逆に価格を下げないようにした結果、売れ行きが悪くなり余剰在庫になる
そのため、企業様からは「標準化することで、安定した利益を確保できるようにしたい」というご要望がありました。
STEP2.課題を解決するために必要なデータ基盤を整備する
課題を明確にした後は、解決するために必要なデータ基盤を整備します。今回の事例では、「購買データ」と「商品の在庫状況」の2点に着目し、次のように進めました。
・購買データ
・商品の在庫状況
2.整備前の状況
・データ自体は元々取得していたが、活用されていなかった
・データは各店舗から月ごとに取得していた
3.整備後の結果
売上が発生する度に、データをリアルタイムで取得できるようにした
そもそも月ごとに取得したデータを活用している場合、月単位で価格を変動させる施策しか打てず、状況に応じた価格設定を実現できません。
リアルタイムな施策を打つ(ダイナミックプライシングを実現する)ためには、購買状況や在庫状況を即座に反映したデータを取得する必要があります。
そのため、購買データと在庫状況は同程度の粒度で、リアルタイムに把握できるようにしました。
STEP3.課題を解決するソリューションを開発する
必要なデータ基盤を整備した後は、課題を解決するソリューションの開発に移ります。今回の事例の場合は、下記の流れで行いました。
各店舗ごとに各時刻(12:00や13:00等)での販売量を予測する機械学習モデルを開発した
2.動的計画法を用いたダイナミックプライシングを行う
店舗の在庫状況と1で予測した需要を合わせて計算し、最適な価格(利益を最大化する価格)を算出した
このようなステップで価格戦略のDXを推進した結果、適切な値下げ幅を算出できるようになり、利益を最大化することに成功しています。
また、各商品の電子値札に対し、自動的に適切な値段が反映されるようになったため、担当者の属人性に依存しない値下げも可能になりました。
適切な価格戦略DXには、課題に応じた手法の選定が重要
小売業で価格戦略DXを進めるときの全体の流れをお伝えしましたが、すべての課題がダイナミックプライシングで解決するわけではありません。また、ダイナミックプライシングと言っても、さまざまな方法があります。
今回は「市場に応じて価格を変動させる」方法でしたが、「消費者の行動に応じて変える」「競合の動きに合わせて変える」などの戦略もあります。さらに、課題もソリューションも、企業によって大きく異なるのが実情です。
そのため「まずは自社の課題にどう対応すれば良いか知りたい」などのお困りごとがありましたら、下記の問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。お客様のご状況に合わせて、最適な提案をいたします。
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