目次
はじめに
人事DXは、デジタル技術によって人事業務を効率化し、企業組織全体の生産性や競争力を向上させる取り組みです。
昨今、コロナ禍をきっかけとした多様な働き方の広がりに伴い労務管理が複雑化しており、また、人手不足が叫ばれる中、勤務地や職種への配属が新入社員の希望通りとならず早期退職につながってしまう「配属ガチャ」と呼ばれる問題も取りざたされているなど、人事業務における課題は山積しています。一方で、それらの業務を担う人事部門のリソースも限られています。そうした状況を打開し、企業・社員双方にとってよりよい成果をもたらすために、人事DXへの取り組みが急務となっています。
データを活用した人事業務の課題・解決事例
人事部門は限られたリソースでさまざまな業務を行う必要がありますが、データを活用することで解決できる人事業務の課題は多岐にわたります。人事データを分析し、人事業務の課題の解決を目指す方法は、ピープルアナリティクス(People Analytics)としても広く知られ、実応用が進んでいます。
しかし、人事データを分析してみたものの、業務における意思決定には活用できておらず、業務の効率化や生産性の向上につながっていないという課題を抱えている方も多いのではないでしょうか。この記事では、人事業務の課題をデータ活用によって解決する事例をご紹介します。
人材採用の効率化
自社に必要な人材を採用することは、企業の競争力を維持・向上し続けるためにたいへん重要です。必要とするスキルと職務内容、また求職者の志向性と企業戦略にミスマッチがあると、内定辞退や早期退職が頻発し、人材採用に多くの労力が必要になってしまうため、自社で活躍できる人材を効率よく採用したいと考える人事担当者の方は多いと思います。
人材採用モデルの構築による採用効率化
一つ目の事例では、過去の採用活動のデータを活用することで、人材採用の効率化を図っています。
具体的には、過去のエントリーシートのデータをもとに深層学習などを活用して人材採用モデルを構築しました。
これにより、自社に適した人材がどういったスキル・志向性を持っているかの傾向を可視化することができ、採用業務の効率化につながりました。
また、自社で活躍できる人物像が明確になることで、採用広報活動において、採用したい人材への効率的なアピールが可能になります。
生成AI活用による面接日程調整の自動化
二つ目の事例では、生成AIを活用し、採用面接に関する業務を効率化しています。
特に新卒採用を実施している企業では、短い期間で多くの面接を実施する必要があり、その日程調整に多くの工数がかかることが課題になっているのではないでしょうか。
採用担当者だけでなく、現場社員も面接官として参加する場合は、面接日程の調整に苦労することも多いかと思います。この事例では、生成AIが応募者と面接官の日程調整に関するやり取りを仲介することで、効率的な面接予約・スケジュール管理を実現しています。
手順としては、生成AIが応募者から候補日程を引き出し、それをもとに面接官から調整可能な日程を引き出します。人事担当者が調整済みの日程を確認すると、生成AIが応募者・面接官の双方に面接日程を連絡します。生成AIを活用した面接調整の自動化により、人事担当者の工数を削減できます。
社員の定着・人材育成
せっかく優秀な人材を採用しても、社員が定着せず、優秀な人材が流出してしまうことに課題を感じている企業も多いのではないでしょうか。与えられた業務に社員が満足しているか、適切な職場環境が提供できているかなどを把握し、社員のはたらくモチベーションを維持・向上する施策が必要です。
仕事のやりがい要因の分析・可視化
一つ目の事例では、社員の満足度向上のため、アンケートデータをもとに、仕事のやりがいに寄与する要因を可視化しました。
具体的には、社員に向けて仕事のやりがいと職場環境に関するアンケートを実施し、その回答データをもとに、やりがい予測モデルを構築しました。
このモデルを活用し、どういった要因が仕事のやりがいに寄与するかを明らかにしました。この分析結果を活用することで、社員のマネジメント方法や職場環境を改善し、社員の定着を促すことが期待できます。
ハイパフォーマー分析
二つ目の事例では、社内の優秀な人材をデータ分析で明らかにし、社員育成に活用しました。
この事例のお客様では、業務に必要な高いスキルを有し、顧客満足度が高かったり、多くの顧客対応を実施したりといった成果を出せる人材を増やすために人材育成を実施したい一方で、どういった人材が成果を出せているのか把握できていないという課題がありました。
そこで、社員の行動をデータ化し、行動と成果指標をAIによってモデル化することで、成果指標と関連が高い行動を割り出しました。
成果指標と関連が高い行動が定量的に把握できるようになったことで、社員一人ひとりの行動と照らし合わせ、社員の目標設定や育成機会の提供に活用できるようになりました。
適切な労務管理(離職防止)
コロナ禍を経て、多様な雇用形態が実現するようになった反面、労務時間の適正管理やテレワーク対応の社員のケアなど、労務管理業務も複雑化しています。 労働時間の適正管理がなされないと、離職の可能性を高めることにもなりかねないため、適切な労務管理が重要です。
離職兆候の早期検知
この事例のお客様では、特に働き過ぎによる離職者が増えているという課題があり、離職の兆候があればそれをできるだけ早く検知し、離職前に十分なケアを実施したいと考えていました。
そこで、社員の過去の労働時間をデータ化し、勤務時間や社員の属性などから、離職との関係性を明らかにするAIモデルを構築しました。
離職の兆候を早期に検知し、離職に至る前に社員へのケアを実施することで、離職を防止することが期待できます。
人材配置の最適化
社員がパフォーマンスを最大限に発揮できる部署へ配置することや、業務のアサインを行うことは、社員がモチベーション高く働くためだけでなく、企業の生産性・競争力の向上にとっても重要です。
異動候補者の選定
この事例のお客様では、企画担当の人材が不足していたため、営業担当の中から企画業務で高いパフォーマンスを発揮できる人材を異動させたいという課題がありました。
そこで、営業担当者の過去の人事評価データをもとに、優秀な企画者となりえるかをAIによって予測できるモデルを構築し、人事評価と優秀な企画者の関係性を可視化しました。これを参照して企画部への異動候補者を決めることで、適材適所の人材配置の実現が期待できます。
人事業務にAIやデータ活用を導入する際のチェックポイントやロードマップ
ここまで、データを活用することで人事業務の課題解決を目指した事例をご紹介しました。最後に、人事業務にAIやデータ活用を導入する際に注意したい点やロードマップをご紹介します。
AIを活用した人事DXのロードマップ
AIやデータ活用を導入し、人事DXを推進する際は、以下のステップで進めることが一般的です。
- 1. 目的の明確化と課題の洗い出し
- 2. 注力テーマの決定
- 3. 解決策の検討と実行
- 4. 効果検証と振り返り
1. 目的の明確化と課題の洗い出し
人事DXを進める際は、まず目的や課題を明確にしましょう。人事業務の効率化(工数の削減)をしたいのか、離職率を下げたいのか、企業の状況によってさまざまな課題が挙げられると思いますが、それらの課題に対し、人事DXによって何を達成したいかを明確にすることが重要です。特に注意したいのが、AIやITツールを導入することが目的にならないようにすることです。AIやITツールはあくまで手段であり、それらを活用してどんな課題を解決したいのかを整理しましょう。新しく導入したITツールの使い方を覚えるなどの手間が増えるだけで、いっこうに業務の効率化が実現できない事態は避けたいです。
2. 注力テーマの決定
課題がある程度洗い出せたら、注力するテーマを決めましょう。洗い出したそれぞれの課題を、重要度・緊急度・実現難易度の観点で整理し、どこから解決していくかの優先順位を付けていきます。重要度が高いものから解決できることが理想ですが、人事データの活用実績のない企業では、スモールスタートとしてまずは実現可能性が高く、効果がわかりやすいテーマから着手し、活用実績をつくることで、より重要な課題への取り組みの足掛かりとする進め方もあります。また、データ活用の観点では、すでに取得できているデータをどのように活用できるかを検討するアプローチも有用ではありますが、それが適切な課題解決につながるかを常に念頭に置くことをお勧めします。
3. 解決策の検討と実行
注力テーマを決めたら、解決策を検討し実行します。解決策は、先程ご紹介したデータ分析の事例などが例として挙げられますが、人事業務の業務フローや、場合によっては業務そのものを見直す必要があることを念頭に置いて解決策を検討しましょう。
4. 効果検証と振り返り
解決策を実施したら、どの程度課題が解決できたかの効果を検証し、振り返りをしましょう。解決策の検討時には想定していなかった悪影響が発生することもあり得るため、施策はやりっぱなしにするのではなく、改善点はないか振り返りをすることが重要です。振り返りが完了したら、改善策を検討し実施するPDCAサイクルを実践しましょう。また、解決策の効果に関するデータを収集し、定量的に効果を検証できる仕組みや体制を整えることも検討しましょう。
人事データ活用において注意したい点
ロードマップにしたがって人事DXを推進する際、そもそも人事業務のデジタル化が進んでいない場合、まずは人事データの整備を目指すことになります。その際、人事データの入力は、人事担当者だけでなく、社員一人ひとりに情報を入力してもらう場合もあるため、人事データを収集・分析することやそのメリットを社内に十分に周知し、社員の理解を得ながら進めることが重要です。この手続きを省略してしまうと、社員の企業への信頼関係を損なうなど、逆効果になりうるため注意が必要です。
また、収集した情報をどのように利用・保存するかの許諾を得てから分析を実施するなど、法令を遵守する観点も必須となります。
人事業務のデジタル化は進んでいるものの、人事データが社員の所属部署ごとに管理されており、データが簡単に利活用できる状況にない企業もあるでしょう。その場合は、データを一元管理できるようにするなど、データの管理方法から再検討する余地があります。
ただし、この場合もデータ整備が目的にならないように注意し、整備したデータを活用することでどういう課題を解決するかを検討することが重要です。
▶関連記事を読む:データ利活用の要、「データマネジメント」とは?構成要素や取り組みロードマップを解説!
まとめ
ここまで、AIを活用した人事DXの事例や進め方についてご紹介しました。TDSEではこれまで、様々な企業の人事DXの推進を支援してきた事例がございます。
AIやデータを活用した人事DXにもしご興味をお持ちでしたら、ぜひお気軽にご相談、お問い合わせください!TDSEの専門チームが、お客様の具体的なニーズに合わせたソリューションをご提案いたします。