TDSE株式会社

東京電力パワーグリッド株式会社様事例

担当者が語るプロジェクト事例 AIによる動画判定・異常箇所の自動抽出 送電線異常検知システム

インフォメーション

クライアント

東京電力パワーグリッド株式会社様

プロジェクト期間

2016年10月〜2017年11月(2018年より運用開始)

プロジェクト概要

東京電力パワーグリッド株式会社が保全する、総延長約1万4500キロメートルに及ぶ送電線の目視確認点検作業を効率化するためにAIを活用。弊社にてAIによる動画判定、異常/正常を判定するDeep Learning モデルを構築した。 本プロジェクトで東京電力パワーグリッド株式会社様と共同開発した「架空送電線 AI 診断システム」は、2020年から電気事業者向けの提供も開始している。

プロジェクト担当

データサイエンティスト エキスパート
マネージャー Y.I.

理学研究科化学専攻(博士後期課程単位取得退学)。プロジェクトの立ち上げ当初からデータサイエンティストとして参加。その後、AIモデルの構築から本稼働まで、全体を統括するプロジェクトマネージャーとして関わる。今回は、担当者として本プロジェクトを振り返る。

プロジェクトの流れ

ヒアリング

東京電力パワーグリッド株式会社様では、これまでヘリコプターによって撮影した送電線動画を、熟練者がひとつずつ目視確認して点検作業を行っていました。 業務上の課題は、
① 膨大な動画の点検作業時間の軽減
② 個人の熟練度に左右される点検精度の標準化
課題解決のために、動画による点検作業の効率化としてAIが活用できるのかどうか検証したいというのがご依頼の目的でした。ヒアリングでは、依頼目的を明確にし、提供可能なデータの確認などを行いました。

PoCの提案

AIシステム構築の場合は、普通のシステム開発と異なり、目的を達成できるAIモデルが作れるのか?ということをまず検証する必要があります。そのためのPoC(Proof of Concept:概念実証)ご提案を行いました。

PoC(実証実験)

今回のPoCの目的は、「AIで動画による点検作業が可能か?」という実証実験です。そのためにはAIに覚え込ませるための送電線の異常データが必要となります。しかし当初のPoC段階で提供されたのは限られた数のデータでした。
送電線は細いため、画像処理で動画データから背景を取り去り、必要な箇所だけを選別して電線画像を分割。1枚の高解像度画像を数十枚に切り分けて、異常データの特徴を一般的な画像認識のフレームワークに落とし込みました。

PoC(検証結果報告)

その後さらに数10件の異常データ提供を経て、段階的にAIの判定精度を上げました。さらにAIが今まで見たことのない異常データも予測できるのか?—モデルの汎化性能(学習していないデータの予測)を検証した上で、未知の画像についても予測可能だという結果を得ました。
PoCで心がけているのは、どなたにでもわかりやすく伝えるということ。モデル理論をかみ砕いた説明と、図を多用した資料を作成するように配慮しています。また、AIシステム開発は出来上がったら完成ではありません。その後の予測精度の向上など、将来の見通しについても必ずご説明します。

ご提案

PoC での検証結果を基に、システムの精度と概要、開発費用、スケジュールをご提案しました。
弊社の提案は、AIシステムをカスタマイズし、都度お客様の最新データをシステムに追加・学習して最適な仕組みを構築していくというものでした。収集したデータの形式を見て分析者が最適なチューニングを行う対応もご提案しました。

受注

競合他社とのコンペティションで、弊社の提案が正式採用・契約に結びつきました。今回のような送電線異常検知というタスクに特化した既存システムはありません。一般的な画像認識の知見を利用して、実際にお客様が保有する動画データに最適化したAIモデルを弊社でカスタマイズして構築できる点、コスト、スケジュールなどの総合的な点で、弊社が評価されたのではないかと思います。

プロジェクトメンバー構成

受注決定後、私を含むデータサイエンティスト4名・エンジニア3名、合計7名のメンバーが、アサインされました。
優秀なメンバーが揃い、密に連携しながらプロジェクトを推進できました。

モデル構築・検証

データサイエンティストによるモデル構築と、エンジニアによるシステム開発は、並行して作業します。私はプロジェクトリーダーとして社内およびお客様への報告を受け持ち、データサイエンティストとしてモデル構築の指揮を行いました。
開発にあたって、お客様から過去5年間分・600件の異常データを提供いただき、データを整理して予測性能を上げていきました。

システム開発・テスト

モデル構築と並行して、エンジニアはUI(ユーザーインターフェース)や画面設計、システム開発を進めます。社内の定例会議やチャットツールで密に連携を取りながら動作確認を行い、開発・テストを進めました。

送電線の不具合検知デモ動画

本稼働

2018年には本稼働開始。さらに送電線の異常検知に伴い、送電線付属品の異常についても対応できるように開発を継続することになりました。これまでに動画から異常を検知して可視化できるシステムは、案件的にも少なかったのですが、Deep Learning を活用した架線異常検知システムとして汎用化できるものだと評価していただきました。

モデル精度向上・保守運用/メンテナンス

本稼働後は、エンジニアチームが保守運用・メンテナンスを担当。本稼働したからといって終わりではありません。お客様への対応や、システムのブラッシュアップや改善を行ってまいります。また、保守運用から、新たな展開や開発が始まっていくケースもあります。(運用に伴うトラブル対応、新規動画データを用いたモデルブラッシュアップを継続的に実施)

プロジェクトを振り返って—
AIソリューションは常に新たな進化へと続く

今回のプロジェクトで、ふだん意識することのなかった送電線について、非常に詳しくなりました。AI学習のために膨大な動画をチェックして検出しやすいように画像処理する作業は、ある意味泥臭いものです。しかし画像処理してプログラミングに当てはめることを何度も繰り返し、思惑通りに精度が上がると、一気に報われた思いがしました。
AIモデルは、常に更新されます。開発時には最適だったAIモデルも、時代を重ねるうちに陳腐化する可能性があります。カメラが変わると解像度も変わります。そうした変化にも抜本的に対応しながら、AIソリューションは常に新たな進化へ続きます。
送電線の異常検知に加え、付属物の検出機能を構築し、さらにシステムは進化しました。その後、本プロジェクトは「架空送電線 AI 診断システム」として汎用化しました。
今後は希少な異常データに頼らずに、異常箇所の検出が可能となるような方法論の確立が必要であると考えています。現状に留まらず、最新研究を反映して、常にお客様に最適なAIソリューションをご提供していきたいと考えています。

ENTRY

我々のビジョンに共感いただける方々とお目に掛かれることを楽しみにしています。

上へ戻る